なんとなくまっすぐ帰りたくなくて、あのモンシロチョウのいた公園に寄り道。荷物をベンチに置いて軽く飛ぶ。体が重い。うまく飛べない。ずっとサボっていたんだから当たり前だ。幼少の頃から何年も積み重ねてきたものなのに、崩れるのは一瞬だ。
「うまく飛べないの?」
ベンチの方から突然声をかけられた。消え入りそうなほど、色の白い青年だった。
「……昔は飛べてたよ。」
「今はすごくぎこちないよ。」
「そんなこと言われなくてもわかってる! ていうかあなた誰よ!」
「わ、ごめん。悪気はなかったんだ。ただこの公園に夜、人がいるのが珍しくて声をかけただけ。ここ、僕の散歩コースなんだ。」
「……あっそ。でもそれだけ人のことを言うなら、あなたは飛べるんでしょうね。」
「うん。得意だよ。」
青年はスッと立ち上がり、助走も、溜めも無く大きく飛んだ。
「ね?」
青年は満面の笑みで私を見る。
「僕が飛び方を教えてあげるよ。ほら、一緒にきて。」
その一度の跳躍に魅せられてしまった私は、言われるがままに、自然と足が動いていた。
バレエの型にはない、デタラメな足運び。ただ舞うことを純粋に楽しむだけの時間。毎日稽古に行っているはずなのに、久しぶりに足を動かした気がした。
汗だくになって、ベンチに腰掛ける。
「はあ、疲れた。けど楽しかった。」
タオルで汗を拭うのもいつぶりだろう。
「また明日も来てくれる?」
と、青年が言う。
「もちろん。」
私は答えた。