その時刻は、まともな生活をしていなかった私には確かとは言えないけれど、人を訪問するような時間ではなかったように思う。私のすべてと言えたものを失った日に文字通り時計は捨てたので、うるさく秒針を刻む音もない。その代わりにとでも言うように、一度目のノックに全く反応できなかった私の目線の先で再び扉が打ち鳴らされた。
ほとほと、ほとほと。ほとほと。
呼びかける声もなく叩かれ続けるその音に、さながら今にも尽きようとしている命を連想してしまい、同時に、戻るはずのないものが帰ってきたように錯覚して弾かれたように頭を上げた。統一性のないノックをまばらに耳に入れながら、その叩かれる扉を凝視しながら、しかしもしそうであるなら、私の儚い希望通りであったなら、扉は向こうから自ずと開かれるはずで、そうではなく延々とノックされるばかりという現状がなによりも、私に希望などないことを報せていた。そしてこんな時ばかり、そんなことにのみ瞬時に考えが巡らされる自分の頭にも悲しくなり、何者がこんな奇妙な時間に扉を叩くだけの行為を繰り返しているのかと不気味に思う余裕もないまま、絶望感に打ちひしがれた。
何日ぶりかに静かに泣くうち、その日はいつの間にか扉をノックする音は止んでいたように思う。