小説

『恋の名残り』香久山ゆみ(『曽根崎心中』(大阪))

 スマホ画面を開く。徳永さんからは連絡もない。アドレス帳から彼の連絡先を消去する。タップする指にみじんの迷いもなかった。
秋の日足は早い。着信したメッセージを確認して、ベンチを立つ。
 また御堂筋を南下せねばならない。少し考えて、ゆっくり歩いていくことにした。ミナミでの待ち合わせまでまだ二時間ある。見合いで決めた過不足ない婚約者が待っている。この先燃える恋をすることはないだろう。来月、式を挙げたらあとは凪のような平凡な日々が待っている。
 せめて待ち合わせ場所に到着する時には、御堂筋のライトアップが点灯していればいいなと願った。

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