すると一匹のミツバチが
「山姥さんは、お友だちがいないの?」
とたずねました。
「昔は、里の人たちと友だちだったのだけどねえ。夏になると祭りのお茶碗を、わたしのところに借りに来ていたもんだよ」
「今は?」
「今は誰も来ないさ。そして、里の人たちはわたしを恐れている」
「なぜ?」
「祭りに使う貸した茶碗を、里の人たちは壊わしたまま、謝らずにわたしに返したのさ。それが悲しくて悲しくて一年間泣いていたわたしの涙が次の年、家の扉から流れ出たのさ」
「その涙に、里の人はビックリしたの?」
「いいえ、わたしが怒って水を出したと勘違いしたのさ。ものすごくたくさんの涙だったからねえ」
ミツバチたちが、いっせいにしゃべり始めます。
「僕たちが、友だちになるから悲しまないで」
「そんな里の人たちなんか忘れて、僕たちと仲良くしよう」
山のてっぺんは羽の音とミツバチたちの声で、いっぱいです。その中で一匹のミツバチが言いました。
「里の人たちとまた、友だちになればいい!」
ほんのわずかな時間だけ、静かになったミツバチたちはまたしゃべりだします。
「どうしたらいい?だって里の人たちはここには、もうこないよ」
「里の人は山姥さんを怖がっているよ」
一匹のミツバチが、また言います。
「僕たちだって、喧嘩はするけれどすぐに仲直りをするよ」
ミツバチたちと山姥はその理由を考え始めます。
「そうだ。僕たちはいつもハチミツのいい匂いに囲まれているでしょう。あの甘い、いい匂いが仲直りをさせてくれる匂いなんだよ」
「たしかに、いい匂いだね」
山姥がうなずきます。