「行くって言うか、生まれた所から逃げて来て・・いえ、あの、別に悪いことした訳じゃないんです。産みの親と問題があって・・・」
俯く青年に、探検家は優しい眼差しを向けた。
「まぁ、辛い事は無理に話さなくていいよ。言葉、上手だね。外国の人だろう?」
「はぁ。日本の、関西って呼ばれる地域です。大分訛ってるんですけど、外国語だと分からないですよね」
「日本かぁ」
二人は暖炉の前で語り合った。探検家は自分の冒険譚や、今までの人生を語った。青年は上手く相槌を打ち、質問を挟み、探検家の話と感情を引き出していく。
「君は聞き上手だなぁ」
「僕は、話し相手として生み出されたんで・・・」
「え?」
青年はハッと息を呑んだ。
「すみません。お酒のせいで、変な事を」
シチューを食べ終えた二人は、暖炉の前でワインを開けていた。
「謝らなくていいよ。どういう事なんだ。よかったら話してみないか」
「信じてもらえるかどうか・・・」
「おいおい、俺は探検家だよ。信じられないような経験もしてきたさ。話してスッキリしたらどうだい」
「それじゃあ、話してみます。これから言うのは本当のことですが、もし信じられなかったら、酔っ払いの戯言だと思って笑い飛ばしてください。僕も人に話すのは初めてなんです。それは、十一月のとある寒々しい夜のことでした・・・」
僕は見知らぬ部屋で目を覚ましました。見知らぬ、以上に変な感覚でした。生まれてから目覚めるまでの記憶が皆無だったんです。まるで何も無い空虚の中から生まれたような。僕は、生まれた瞬間から二十七歳の男性でした。あぁ、変な目で見ないでください。話はまだ続きます。
目覚めた時、真っ暗な部屋に一人きりでした。起き上がろうとすると体の節々がやけに痛みました。手探りで電気のスイッチを見つけて明かりをつけるまでに、色んな物にぶつかった気がします。明るくなった室内を見て、僕はますます訳が分からなくなりました。そこは寝室ではなく実験室。僕が寝ていたのはビニールで覆われた硬い台で、見下ろせば自分は全裸でした。何か手術を受けたにしても、シーツの一枚位は掛けていそうなものですが。
自分の姿に恥ずかしさを覚えた僕は着るものを探しました。クローゼットを開けると男性の衣服が一揃い並んでいたので、誰のか知りませんが身に付けました。ドアは鍵が掛かっていて出られません。状況が何一つ分からず、僕は途方に暮れました。