小説

『出雲での出会い』岩﨑奈美(『出雲神話』)

 みな子が海のほうを振り向くと、薄暗い中に、さまざまな姿形をした不思議な者たちが、続々と海からあがってくるのが見えました。龍蛇は、
「傷ついていたところを、助けてくれてありがとう。あなたは人間だが、特別に、私の主人であるオオクニヌシ神様のところへお連れしよう。それから、今夜は、神々のために用意してある宿でゆっくり休んだらいいよ。」
 龍蛇はそう言うと、数え切れないほどたくさんの神々を引き連れて、細い道を進んでいきます。みな子も龍蛇を見失わないようについて行きます。しばらく行くと、大きな鳥居が見えてきました。神々を宿へ案内した後、龍蛇はみな子に言いました。
「ここ出雲大社で、明日から一週間の間、八百万の神々が顔を突き合わせて、よろずの事を話し合うんだ。人々の目には見えない、運勢や縁についても大切な議案だよ。さあ、このご本殿に、オオクニヌシ神様がいらっしゃる。」
 龍蛇の後に続いて、立派な建物に入っていくと、不思議な雰囲気をした優しく微笑む男性が座っていました。
「ことの次第は承知しておるよ。私の大切な友人を助けてくれて礼を言う。もうひとりの友人であるうさぎが、ちょうど月から地球に遊びに来ておるのだがね。そのうさぎを、一緒に明日連れて帰ると、何か良いことがあるかもしれぬぞよ。」
 みな子は、様々な不思議な出来事に、少し疲れを感じて、龍蛇の用意してくれた宿で休むことにしました。すると、そこにはいろんな神様がくつろいでいました。気のせいか、みな子の家の近くにある神社の匂いのする神様もいました。すみのほうで、みな子は眠りにつきました。
 次の日の朝、みな子が目を覚ますと、すでに神々は会議へと行ってしまったようでした。みな子は、出雲大社の広い境内をぐるりと回って参拝したり、名物の出雲そばを食べたりしました。その後、昨日オオクニヌシ神に言われたとおり、神社の裏まで行きました。すると、ひょっこりと白いうさぎが現れて、
「みな子さん、はじめまして。僕は、月でお餅をつくのを少し休んで、地球に遊びに来たんだ。よろしくね。」
 と言いました。そして、うさぎの体がどんどん縮んでいき、ちょうどみな子のポケットに入る大きさになりました。みな子は、うさぎをポケットに入れて電車に乗って帰りました。みな子が家に帰ると、うさぎはテレビやパソコンに興味津々。
「僕は地球に住んでいた時もあったんだ。だけど、最近は月でお餅をついてばかりいたから、地球の変化は興味深いよ。」
 うさぎは、みな子が仕事に出かける時もポケットに入っていつも一緒です。みな子がパン屋の店先に立ってお客さんを呼び集めている間は、ポケットからひょっこり顔をのぞかせています。うさぎは、他の人には見えないようです。なかなかお客さんはやって来ません。すると、うさぎは長い耳の穴からお餅を取り出すと、
「えいや!」
 と言いながら、思いきり振り回しました。お餅はびよーんと長く伸びて、遠くの方を歩いているおばあさんにペタリと貼り付きました。うさぎは、伸びたお餅をたぐり寄せます。すると、おばあさんもくっついたままお店の前までやってきました。おばあさんは、
「あらあら。なんだか、よくわからないけれど急にパンを買いたくなってきたわ。」
 と言って、パンを買っていきました。同じように、うさぎはお餅を振り回しては辺りの人々をたぐり寄せます。パン屋の店先には、いつの間にか行列ができていました。みな子は、パン屋の店主に、
「君のおかげで、パンがたくさん売れるようになったよ。ありがとう。」
 と言われました。うさぎと一緒に暮らしていると、みな子のまわりで良い事がたくさん起こるようになりました。うさぎは、毎晩、みな子とこたつに入りながら、月を出発していろいろな星を旅した話をみな子に語ってくれました。それから、地球に住んでいたころの話も語ってくれました。

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