二年生に進級してクラス替えをしてからまだ一か月ちょっと。仲が良くなった子ですらまだそこまで深い話はしていない時期であるから、クラスメートにギャップはあって当然かもしれない。
しかし思い描いていた性格とあまりにちがいすぎる。
「え、えっと、じゃあため息つくたびに十円はらう……」
「え、そういうことじゃない。いやでも面白いです」
笑い交じりに返す貝塚くんに美空は顔が熱くなりながらも、胸を撫でおろしていた。
「すみません。ぼくも要求するのだったら事情を聞くべきだった」
貝塚くんは本を閉じて身体ごと美空のほうを向いた。
「話してみてください」
美空は気が付いた。あ、この人変わってる、と。
「ちょっと。なに美空にからんでんの」
後方から声がかかる。振り返るとそこにいたのは隣のクラスの涼葉だった。合唱部で一番仲のいい子である。
「貝塚と隣の席になっちゃったんだ。ご愁傷様」
「どちら様ですか」
「前一緒のクラスだったでしょうが! ってか貝塚に話しかけてない!」
涼葉は誰にでも気さくに話しかける子であるが、それでもここまで遠慮のない物言いをするのはめずらしい。
「美空これ忘れてったでしょ」
わたされたのは楽譜のコピーだった。あとで台紙にはろうと思って机に置きっぱなしだったみたいだ。
「ありがとう! よかったー」
「部長に見つかったらまたなんか言われるもんね」
涼葉の顔には心配な様子が色濃くでていた。最近、冗談めかしつつ「部長からの当たりがきつい気がするんだよね」と話したことを美空は後悔していた。
「大丈夫だよ。もう慣れてきたし」
「でもさ、今日の朝もあれはないわと思った。桃達のがよっぽどうるさいのにね」
「ありがとね。気にしてくれて」
「ううん。あんまりにもひどかったらわたしから言うからさ。いつでも言って。あ、あと貝塚になんか言われたらそれも言って」
涼葉が貝塚くんの方を見たので美空も振り返る。当の本人は素知らぬ顔で読書をしていた。
「無視すんな!」
「もうすぐ予鈴鳴るけど」
「あ、やばっ! また後でね美空!」