小説

『万死に一生の夢』文城マミ(『死神の名付け親』)

「お前はまだまだ生きるぞ」
 僕の蝋燭のすぐ隣に、今にも消えそうで頼りなく光を灯す蝋燭がある。
「この蝋燭は?」
「この蝋燭はもう消える。もうすぐ死ぬってことだ」
「この蝋燭の主はどんな人なんですか?」
「これは90歳近い老人の蝋燭だ」
「じゃあこっちの蝋燭は?」
 僕は老人の蝋燭の隣にあった残り少ない蝋燭を指差した。
「これは中年の男の蝋燭だ。余命1ヶ月ってところだな。こいつにお前の寿命を分けてやるか?」
 僕の寿命。どうせ死ぬなら最期くらい人のために成ることをしようと思う。でも、いざとなると誰に寿命を分けてやるべきか、そんな大きな決断は簡単にできない。
 僕が返答に困っていると、死神は少しいたずらそうな顔をして、「どんな奴か見てみるか」と言い、再び僕の目元を掌で覆った。
 記憶が途切れたような感覚の後、閉じた瞼から少し光を感じたのでそっと目を開けてみる。ラーメン屋の前だ。
「厨房の一番奥の方で皿を洗ってる奴がいるだろ?あいつはあと1ヶ月後に心臓発作を起こして死ぬぞ。妻とまだ幼い一人娘の為に一生懸命働いてるのにな」
 死神の声が耳元で聞こえた。どうやら僕と死神は、周りの人には見えていないようだ。
「あと1ヶ月・・・」
「どうだ?あいつに寿命を分けるか?」
「えーと、これって、一旦この方を保留にして、別の方を検討してもいいんでしょうか」
「他のやつも見てみたいか?」
「はい。可能であれば。自分の寿命をあげるって、よく考えたらとても重大なことなので」
「ふふ。さっきまで死のうと思ってた奴が。変な奴だな。わかった」
 死神はもう一度僕の目元に掌をかざした。
 そうやって残り短い蝋燭を見つけては、死神と共に寿命の短い人々の元を訪ねてみた。しかし、なんだか選びきれずにいた。理由は自分でもハッキリ分からない。多分顔が嫌いとか、性格が合わなそうとか、そんなくだらない理由だと思う。でも自分の寿命を与えるのだから、それなりに好感の持てる人間を選びたいと欲が出てしまう。
 目を開ける。花がたくさん見える。今度は花屋か。死神とともに何度目かの旅を経て、僕は疲れ切っていた。花屋は閉店間際のようで、店外に出されていた花を店員が片付けている最中だった。
「あの女は後半年ほどの命だ。確か心不全かなんかだ」
 心なしか死神も疲れているように感じる。少し申し訳ない気持ちになった。

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