「お前、あれほどラテン文法をやっておけと言ったのに」
ソフィアは、彼に恐るゝ視線を向けました。
「ごめんなさい、お爺ちゃん。ピーテルの馬に乗っていたから。ねえ、お爺ちゃん。私、お勉強には向いていないと思うの」
「お前は、あんなギャンブル狂いの家の息子と仲良くしているのか? あの家は、親父がカードで全財産無くしているのを知っているじゃろう。しかも、あやつも働いてはおらぬ。お前だって、遊びまわっている暇はないはずじゃ。女といえども、学を身につけ、たとえ一人でも生きて行けるように備えねばならぬ。それには、上級学校へ行くのじゃ」
彼は、床にドンと杖をつきました。ソフィアは、一瞬びくっとしましたが、これまで思う所があったのか、口元をきっと引き締めました。
「私は、学を修めるよりも、ピーテルの描く絵を眺めながら、幸せに穏やかな日々を送りたいの。彼と一緒になれば、貧しくてもきっと力を合わせて生きていけると思うの」
ヴィレムの顔は、怒りで膨れ上がり、額には青筋が浮き出ています。
「あやつが、お前をそそのかしたんじゃな? あんな絵を少し描いているだけの怠け者が、お前を幸せにできるわけがなかろう。よくお聞き、幸せというのは、誰かを頼って恵んでもらうものだと思っているうちは、絶対に手に届かぬ」
ぜいぜいと息を切らす爺に、ソフィアは心配そうな顔をしました。
「お爺ちゃん、分かりましたから」
「死んだお前の母親はな」肩で息をしながら言った。
「儂があいつに学を授けてやれなんだばかりに、苦労したんじゃ。じゃが、ソフィア、お前は今からでも遅くない。時間を惜しんで学ぶのじゃ。ごほっごほっ」
「ごめんなさい。私、お勉強します。だから、もうこれ以上は喋らないで」
彼女は、老人の背中をさすりながら、哀願したのでした。
クリスマスの翌日でした。孫娘が熱心に勉学に励んでいるのを見届けたヴィレムは、深夜に家を出ました。外套の中には、金貨が何枚か入っていました。昨日回収した利息と、種籾と壺を売って得たお金です。
寒い風がびゅうびゅう吹く中、着いたのは、持ち主のいない荒れ果てた小さな畑でした。以前家の中にあったお金を盗まれて以来、金貨を持つ度、そこに持っていくのが常だったのです。
畑の一角を、彼は木片を使って掘り始めました。土は柔らかく、途中からはヴィレム自身が手を使って土を避け始めました。
中から大きな壺が出てきました。壺の上にかぶせてあった木の板を除くと、中にはぎっしりと金貨が詰まっていました。
「もう少しじゃ。それにしても長いことかかったのお」
壺の中を見て、ヴィレムは呟きました。