小説

『七番目の地蔵』裳下徹和(『笠地蔵』)

「この間亡くなった伍助さんについて教えて欲しいんだけど、何か知っているかな?」
 子供達は、僧である私の役に立ちたいのだろう。口々に思いを述べる。
「伍助さん。お餅つまらせて死んじゃったのだよね。可哀想」
「村を救った人って、父ちゃんが言っていたよ」
「時々一緒に遊んでくれた。河原で石積んで遊んだよ」
 子供達が、思い思いに喋った内容から、伍助が好感を持たれていたことはわかる。
「村を救ったって言っていたけど、伍助さんは何をしたの?」
 私の質問に、あおばなを垂らした少年は、
「わからん」
と言って笑った。
 それに続いて、子供達が適当なことを言い始める。
「俺は餅を喉につまらせなくて良かった」
「俺もよく噛んだから大丈夫だった」
 総じて貧しそうな村だが、正月に餅を食べられるくらいには余裕があるようだ。少し意外だ。
「みんな餅はうまかったか?」
「うん。うまかった。七番目の地蔵様が持ってきてくれたんだ」
 七番目の地蔵。
 私が質問しようとするのをさえぎって、他の子供がまくしたててくる。
「七番目の地蔵様なんて、まだ信じているのかよ。あれは、父ちゃんが町で買ってきてくれたんだよ」
「おめえら何言ってんだよ。この間の餅は、伍助さんがくれたものだ。俺夜中こっそり見てたから間違いねえ」
 子供は、小さな意見の相違で、喧嘩を始めたりするからやっかいだ。
 私が子供達をなだめていると、大人の怒鳴り声が聞こえた。そちらに目をやると、中年の女性が肩をいからせ歩いてきている。
「ご迷惑おかけしました」
 中年の女性は、そう言って子供達全員を連れ帰っていった。
 私は、子供達が伍助と遊んだと言っていた河原に行ってみることにした。
 伍助は子供達と石を積み上げ、何を思っていたのだろうか。
 村に戻って探索を続けていると、にわかに騒がしくなった。
 たえが死んだのだ。
 私は家まで走り、たえのそばに近寄った。そして、呼吸と脈を確かめる。どちらも感じ取ることが出来ない。
 とても安らかな死に顔だった。

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