こんな女が寄って来たらほとんどの男は引っ掛かってしまうだろう。
「ほら、仕事に戻って。」
後ろ髪を惹かれる思いで、彼女の誘惑を絶ちきった。
「・・・。」
自分で言うのもなんだが47にしてはまだまだ女性にモテる方だと思う。仕事もそれなりこなしているし、体も週3でジムに行っているので締まっている。 しかし、誘いに乗る訳にはいかない。今も女性用の下着を身につけている。
「出張?」
「ああ、福島に一週間。」
「そう。」
妻は特別驚く事もなく答えた。
「お土産宜しくね。」
娘の京子が口を挟む。
「仕事なんだけど。」
「お土産くらい買う時間あるじゃん。ねぇお母さん。」
京子は素早くスマホをいじりだす。
「ちょっとご飯中なんだけど。いじるのやめなさい。」
「は~い。」
妻の言葉に京子はスマホの画面を裏返しにする。
「でも、なんの出張なの?」
「化粧品の店舗をオープンするからそれの手伝い。」
「え!じゃあ私は化粧品がいい!ねぇお母さん!」
京子は目を丸くして母に同意を求める。
「そうね、私もそれでいい。」
妻の声も嬉しそうだ。
「あの、観光に行くわけじゃないぞ。」
「けち臭い。そんなのちょっとじゃん。ねぇお母さん。」
「そうね。」
「でしょでしょ。」
妻と娘が同調し始めた。そこからはあれが欲しい、これが欲しい、あれは良い、これは使いづらい、で盛り上がっていた。
自室のクローゼットの鍵を開ける。
そこには女性物の服や化粧品が綺麗に納められてある。
「・・・。」
改めて思う。
いつまで家族に秘密にしていなければいけないのだろうか。
もし、伝えたら一体どんなリアクションをするのだろうか?
こんなことをずっと頭の中でシミュレーションしてきた。
けれどどんなパターンを想像しても妻と娘はドン引きしていた。