「隼人はそうは言ってませんけど。」
「・・・。」
「手をあげようかどうか迷ってる間に勝手に終わったって言ってます。その後は本人の意思を確認しながらと仰いましたけど、それも不十分だったと聞いています。」
「・・・そうなんですね。すみません。」
「変えて下さい。」
「え?」
「本当は桃太郎がやりたかったみたいなんです。」
「桃太郎に変えるということですか?」
「そうです。」
無茶苦茶な事を言っている。
「すみません、桃太郎は他の子が決まってしまったので。」
「誰ですか?」
「え?」
「誰ですか?」
二ノ宮俊也と言う園児が決まっていたが、名前を出すのはためらわれる。直接話をされては困る。
「すみません、それはちょっと。」
「なんで言えないんですか?」
「いえ、言えない訳ではないんですが。」
「じゃあいいじゃない。」
グイグイ攻め混んでくる。
「いえ、役にご不満のお母様にお教えするのは・・・。」
テンパってしまって変な返答になってしまった。
「じゃあ全員が納得するように説明会、いや、こちらで配役を決めてもいいんじゃないかしら。もちろん子供の意見を尊重して。」
「それはちょっと・・・。」
「ご存知か分かりませんが隼人は児童劇団に所属していて、ドラマとか映画に出ているような子なんです。少し引っ込み思案な所はありますけど、演技に関しては人一倍関心が高いんです。そういった向上心が強い子供の意見が尊重されないのはおかしくはありませんか?もしかしたら業界の関係者も見に来るかもしれないんですよ。」
劇団だ関係者だはどうでもいいが、一度決定したものを『やり直しましょう』なんて言えるわけがない。
「じゃあ頼みました。」
「え?あ、ちょっと波岡さん。」
一方的に切られてしまった。
どうすればいいんだ・・・。
「じゃあ話し合ってみれば?」
園長はなんて事ない顔で言った。とんでもない男だ。
「他の人にはなんて伝えればいいんでしょうか。」
「そのまんまでいいよ。『配役にご不満がある方がいるので、一度話し合いを持ちたいと思います。その際お子様のご意見を聞いて頂けると幸いです』って紙に書いて渡せばいいんじゃない。」
「・・・。」