小説

『四七人も来る』平大典(『忠臣蔵』)

「ああ、それって今日だったっけ。まあ、吉良君のスケジュールに入れたのは僕だしね」
「はい?」
「一週間前に、大石ちゃんから僕の処に電話が合ってさ、どえらい剣幕だったから、吉良ちゃんの予定押さえちゃったんだよね。どうせクレームなんだし、こっちだって裁判になっても勝てるエビデンスもあるんだから。なんとか、うまいことやってよ」
「いや、四七人も来ているみたいで。多分、浅野先生の過去の生徒やら親類かもしれませんが」
「うわー、マジ」
「本当です! 警察を呼ぼうかと思いますが、いいですよね?」
「あー、駄目だね」何を言っている、このド阿呆。「警察はダメダメ。通報は来月まで待って」
「来月って」大石は拳を握った。「……学長選挙ですか?」
「そう、学長選挙が終わるまでは、何が遭ってももみ消すの。現学長もまだ一期目で盤石ではないからね、これでマスコミなんかに知れたら、ジ・エンド」
 確かに徳田は、現学長のお気に入りだ。現学長がこの件で再選を妨げられれば、事務方のトップである徳田も失脚するかもしれない。少なからず、部下である大石にも影響があるだろう。
 電話を切ると、吉良は深呼吸をして、覚悟を決めた。

 
 大石が警備主任である色部に連絡すると、吉良のデスクまで走ってきた
「大石さんというのは、吉良課長に襲い掛かった浅野先生の愛弟子である大石さんですよね?」
 警備主任の色部は、肩で息をしながら、確認をしてくる。
「色部君も知っているんだね?」
「風俗通いでご高名でございます!」
「まあ、そうだけど」どっちでもいい話だ。
「小生がうかがっているところでは、浅野先生の『ご乱心』で一番被害を被ったのは、大石さんだと」
「そのはずなんだよ」勤務先である私立大学でも後ろ指を指されていると聞く。
「堀部も来ているのかな?」
「でしょうねえ」
「なんとか押し返してほしいな」受付は一階、吉良のデスクがある総務課は三階にある。
「御意。この色部にお任せください」
 ここぞとばかりに目がギラギラしている色部が頭を下げたところで、
「きらぁあ」階下から叫び声が響き渡ってきた。
 続いて、ドカドカと多量の足音がフロア中に響いてきた。
「あの音は?」
「受付を突破して、四七人が階段を駆け上がっているのでしょうね」
 突破ってなんだよ。

1 2 3 4 5 6