小説

『コタツ』三号ケイタ(『てぶくろ』)

「おじさんも、入ったらどう?」
 男性は、普段ならとてもそんな気にはなれないのですが、不思議と、そのコタツの中に入ってみようという気になりました。そこで布団をめくって、コタツの中に足を入れました。すると、温かい空気が、自分の足を包み込んでいくのを感じました。男性は、自分が昔暮らしていた故郷で、コタツにくるまっていた時のことを思い出しました。男性は鼻をすすると、コタツに潜り込みました。
 雪は、どんどん勢いを増して、降り続けます。
 ◆
 雪がうっすらと手すりに積もる駅前の夜中。ばらばらと人々が通り過ぎていきます。そこへ、マフラーを巻いた女子大生くらいの女の子が通りかかりました。女の子は、ゆっくりと、一歩一歩べしゃべしゃになった地面の雪を蹴るようにしながら歩いているのでした。
 女の子が駅前の広場を通りかかると、広場の一角に、大きなコタツが置いてあるのに気がつきました。こんなところにコタツなんか置いたら、濡れてしまうんじゃないか。そう思って近づいてみると、不思議と、天板にも、布団にも雪がかかった様子はなく、家の中と全く同じであるかのようなのでした。
「なんでこんなところにコタツがあるの?」
 コタツに近寄って、女の子はつぶやきました。すると、コタツの中から声がしました。
「分からないけれど、あったかいよ」
 女の子がおどろいてコタツをのぞき込むと、その中には男の子が二人と、男性が一人入っているのでした。
「何をされているんですか」
 女の子が聞くと、男性は言いました。
「僕も通りかかっただけなんだけどね。なんだか、あったまりたい気になっちゃったんだ」
 女の子は、男性の笑顔と、その言葉に、思わず涙がこぼれてしまいました。私も、そうしてコタツに入ったら、あったまることができるのだろうか、と思いました。男の子たちはうなずきました。
「お姉ちゃん、泣かないで。コタツに入ればあったかいよ」
 女の子は、ブーツを脱いで、コタツに潜り込みました。夜空を見上げると、際限なく降り続ける雪が顔に当たっては溶けて、冷たく顔を流れていきます。けれども、コタツに潜っている体は温かく、いつか、ちょっと前まで、彼氏と一緒にコタツで暖まっていた時のことを思い出すのでした。
 雪は、どんどん降って、道にも積もっていきます。
   ◆
 雪が降り止んで、静かになった深夜の駅前。人通りはなく、ごくたまに車や電車が通る時くらいしか音はしません。
 雪を踏み分けて、一人の男の子が、駅前を通りかかりました。高校生くらいの、頭を金髪に染めたその子は、息を白くさせながら歩いてきます。
 男の子が、にぶく光る街灯に足下を照らされながら、駅前の広場を歩いていると、その一角に大きなコタツがあることに気がつきました。吸い寄せられるよう近づくと、コタツの中から楽しげな声が聞こえます。男の子は無性に悔しくなって、コタツを蹴りました。すると小さな悲鳴が聞こえました。

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