小説

『コタツ』三号ケイタ(『てぶくろ』)

「誰なのよ、蹴るのは」
 その言葉におどろいて、男の子はコタツの中を覗いてみます。すると、中には男の子たちと、男性と、大学生くらいの女の子が入っているのでした。
「なんでこんなに人が入っているんだよ」
 そう男の子が言うと、女の子が言います。
「いいじゃない。私も通りかかって、入っただけなのよ」続けて、隣で丸まっている男性も言います。
「若者がこんな遅くに出歩いているのは感心しないな。さあ、こっちに入りなさい」
 男の子は、なんだか久しぶりに大人に注意をされたなと思いながら、言われるがままコタツに足を突っ込みました。すると、足先から温かい空気が体を伝って、ほっと息が出ました。それから、なんだかがさがさしていた気持ちが、急に緩んで、涙が頬を伝うのでした。こんなにあったかいのは、いつぶりなんだろう。そう思いながら、男の子はコタツに潜り込むのでした。
 駅のホームに最後の電車が着いて、やがて駅前の照明もぱらぱらと落ちていきました。
  ◆
 冬の、朝のことです。雪が積もって、そこに朝陽が差してきらきらと光っている駅前には、早朝の仕事に出る人たちが歩いていきます。
 駅前派出所の警察官が、遺失物届けを見ていると、その中にコタツの遺失物届けがあるのでした。コタツなんて、どこに落とすんだよ、と警察官は苦笑いしながら駅前の巡回に行きました。
 駅前の広場を通りかかると、その一角にコタツが置いてあるのに気がつきました。
「ここにあるじゃないか」
 警察官は驚きながら、コタツに両手をかけて持ち上げました。
 するとそのとたん、中から二人の男の子たちと、コートを持った男性と、大学生くらいの女の子と、金髪の高校生くらいの男の子が飛び出ました。
 みんな笑いながら、ばらばらに、めいめいの家の方へと一目散に駆けていくのでした。あっけにとられていた警察官も、しばらくして笑いながら派出所へと戻っていきました。

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