小説

『コタツ』三号ケイタ(『てぶくろ』)

 まだ冬のビル風が寒い駅前の夕方。たくさんの人たちが通り過ぎていきます。彼らは立ち止まることなく、めいめい自分たちがもつ事情を抱えて、歩いて行くのでした。
 塾帰りの二人の兄弟が歩いていると、駅前の広場の一角に、見慣れないものがあることに気がつきました。二人が近寄ってみると、それは、大きなコタツなのでした。
「なんでこんなところにコタツがあるんだろうね」
 弟が言うと、お兄ちゃんも「さあな」と言い、周りを見回します。前を歩く人たちは、コタツに目もくれず、ひたすら前を向いて通り過ぎていくのでした。
「あったかそうだねえ」
 弟がむずむずとして、お兄ちゃんも「そうだな」と言い、もう一度周りを見回します。けれどもやはり、このコタツを見る人も、そして、こうして立ち止まっている自分たちを見る人もいないのでした。
 お兄ちゃんがコタツに目を戻すと、弟が座りこんでコタツに足を入れています。
「おい、やめろよ。誰かのコタツかもしれないだろ」
 お兄ちゃんがたしなめると、弟は「でも、あったかいよ」と無邪気に言いました。
 お兄ちゃんが見ると、コタツ布団はやわらかそうだし、弟が足を差し入れている隙間からは、湯気でも立ちそうな温かい空気が流れてくるのでした。なんだか懐かしいな、そう思いながらお兄ちゃんは靴を脱ぐとコタツに足を入れて、座り込みました。コタツの中はじんわりと温かく、気持ちがほぐれていきます。こんな風にコタツに入るのは、いつぶりだろう。お兄ちゃんはそう思いながら、昔、お父さんやお母さん、家族みんなが一緒にいた時のことを思い出しました。
「あったかいね」弟がそう言って、お兄ちゃんは弟をぐっと抱き寄せました。それから二人はコタツに潜り込みました。
 駅前の夕方は過ぎていき、あたりはもうだいぶ暗くなっています。
 ◆
 雪が舞う駅前の夜。帰途につく人たちがたくさん通り過ぎていきます。そこへ、コートを着た一人の男性が通りかかりました。彼は風に吹かれて舞う雪に眉をしかめながら、歩いてきました。
 男性が駅前の広場を通りかかると、その一角に、大きなコタツが置いてあるのに気がづきました。道を行く他の人たちは、コタツには目もくれず、通り過ぎていきます。男性は、なんでこんなところにコタツがあるのだろうと思いながら近寄ってみました。
「誰かの、コタツなのかな」
 そう独り言をすると中から、
「そうです、これは誰かのコタツです」
 という声がしました。男性はおどろいて、布団をめくってみました。すると、中には二人の小学生くらいの男の子たちが丸まっているのでした。男性は、窒息してしまいやしないかと、心配になりました。
「大丈夫かい」
 そう声をかけると、子供たちは無邪気に「大丈夫。あったかいよ」と言いました。男性はほっとするのと同時に、自分が今、とても寒かったことを思い出しました。その様子を見てか、男の子たちは男性に話しかけました。

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