小説

『桃のアフターケア』島田悠子(『桃太郎』)

「だったら」
 桃太郎はきびだんごをすっかり食べて答えた。
「だいたい、3、4歳くらいかな?」
「ふげーっ!!!」
 オレはのけぞった。鬼とはいえ、いたいけな子供たち! そんなの退治できるはずがない。でも、来たのは先月なんだよな? ってことは……。
「その小鬼、どうしたの?」
「小鬼たち、な」
「たち?」
 相手は集団?
「何人くらい?」
「あんまマジメに数えてないけど、ざっと、20人くらい?」
「げはぁーっ!!!!」
 そんなヒヨコの集団、かわいい以外のナニモノでもない! まさか、桃太郎、それを!
「退治したの?」
「したよ」
「ぎゃひぃーっ!」
 オレはもんどりうち、縁側から落ちて頭を打った。桃太郎、こいつ、鬼かっ!
「かわいそうに!」
「まぁな。みんなベソかいて帰ってったよ」
「えっ? こ、殺したんじゃないの?」
「殺すわけないじゃん! ワンすけ、お前、鬼か。こんなちんまい小鬼だよ? 殺すならいつでも殺せるし、かわいそうじゃんか!」
 さらっとすごいこと言った気がするけど。
「鬼ごっこで勝負したんだよ」
「鬼ごっこ? 鬼と??」
 はははは、と無邪気に桃太郎が笑う。
「いいっしょ?」
やっぱバカだ、この人!
「それで、桃太郎が勝ったの?」
「負けるわけないじゃん、オレを誰だと思ってんの?」
 子供相手に手を抜かないオトナがここにいましたよ!
「少しぐらい負けてやってもよかったんじゃ?」
「だめだよ、ワンすけ。そしたらあいつら、調子に乗って、大人になったとき村襲う鬼になっちゃうだろ。そしたら、ぶっ殺さないといけなくなるんだぞ?」
 うっ。一理ある。桃太郎、考えて行動しているようには見えないんだけど……。あとづけか?
「今日も来るんじゃないか?」
 えっ?
「小鬼たちが?」
「そろそろじゃない?」
 えぇっ?
「毎日、来てるから」

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