小説

『桃のアフターケア』島田悠子(『桃太郎』)

「どっしぇええええーっ!!!!」
 ど、どういう状況それ!? 桃太郎んちに毎日、小鬼が通って来てんのっ?
「鬼ごっこしに?」
「親の敵討ちと、これまでの雪辱を晴らしにね」
 そう言えばそれっぽいけど!
「あ、でも、土曜は半日、日曜は休みね。オレ、対応してないから」
 なんちゅうドライなルール作ってんの、桃太郎っ!
「ごはんとおやつは、ばあちゃんが作る」
 敵んとこで食事してくの、小鬼たち!? みんなでいただきます? かわいいけどっ!
「ごはんのあとは昼寝な。オレも眠たくなるし」
 しかも、昼寝つきーっ! 親の仇の緊張感はどこ行ったのーっ!
「も、桃太郎、じゃあ、先月から一回も勝たせてあげてないってこと?」
「そうだよ」
「一回ぐらい勝たせてやんなよ! 子供相手でしょ!」
「勝ったらもう来なくなるだろ」
 え? そうだけど。桃太郎、まさか。
「さびしいの?」
「いや。そしたらあいつら、自分が強いって勘違いしたまま生きていくことになる。いつか本当に強いヤツにケンカ打ってぶっ殺されることになるかも。オレとか?」
 い、一理ある! 桃太郎のくせにっ!
「それに、オレに勝とうとして、みんな、来たときよりたくましくなってるしな。成長してるよ」
 な、なに、なにその優し気なほほ笑み!
「鬼のママたちの差し入れもけっこう助かるしな」
 えっ?
「差し入れって?」
「金とか、銀とか」
 鬼が実弾うってきたぁーっ! 桃太郎、まさか、鬼ママから収入得てんのっ?
「さてと」
 桃太郎が立ち上がり、桃のアップリケのついたエプロンを身につける。
「なに、それ」
「ばあちゃんが作ってくれた。新しい戦闘服だ!」
 戦闘服には絶対、見えないんだけど!
「今日はなに鬼にしようかな?」
 桃太郎が大きくストレッチして全身をボキボキと鳴らす。トレードマークの桃のハチマキもしめる。鋭い目つきになる。鬼ヶ島で見たのと同じだ。
「も、桃太郎?」
「ほら、来た」
 聞いたことのない音がして、大きな乗り物が庭に来た。オレは思わずカラダが反応して吠えてしまった。
「はははは」
 桃太郎が笑う。笑うな!
「すごいだろ、鬼ママの差し入れの金銀で買ったんだ!」

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