小説

『A Boy Behind the Shutter』植木天洋(『オリバー・ツイスト』)

ツギクルバナー

 ふとした思いつきから外出した。二三日家に引きこもってテレビばかり見ていたから、実家の近くにある長いアーケードや公園を一人でぶらぶらしたかった。
 季節はちょうど秋で、寒がりのわたしにはコートを着てちょうどよいぐらいの肌寒い一日だ。お気に入りのカトラリーショップに足を運んで、キラキラと輝く食器をいつものようにひとつひとつ眺めていた。
 すると同い年くらいの女の人――顔は忘れたけれど――に声をかけられた。臙脂色の生地で、淡く金粉がチラしてある渋すぎないすっきりとした着物が素敵な女性だった。
 彼女に向かいの空き地でやっているフリーマーケットでボランティアをやらないかと誘われた私は、なんの気まぐれからかそれを引き受けることにした。
 フリマが行われている空き地へいくと、入り口の左隅に運営関係者らしい女性がいた。黄色のスタッフジャンパーを着てバインダーを持った彼女は、私を見てさわやかに笑った。
「ボランティア希望の方ですね。ここにお名前をお願いします」
 書きやすいように差し出されたバインダー上には書類がはさんであって、左と右の二列に分かれた名簿になっていた。左側はすでに様々な名前でびっしりと埋まっていた。私は右側の上の方に名字を書いた。ボールペンのインクが出過ぎて、かきはじめの線がにじんでしまった。
「はい、じゃあお願いします」
 彼女は再びさわやかに笑って、バインダーを抱きしめた。
 あまりにも簡単な手続きだったので、拍子抜けした。たったこれだけでいいのだろうかと疑問に思ったけれど、それを確認しようと着物の彼女を振り返ったら、いつの間にかいなくなっていた。
 私は困ってしまった。
 よく考えてみればボランティアといっても何をしたらいいか聞いていなかったし、何より動きやすい格好ではない。あまり汚れたくもないし、できることがあるのだろうか。
 仕方がないので着物の女性を探しながらぶらぶらとフリマの中を歩いて回ることにした。本格的にショップ然としているブース、明らかに引き出物のような食器を並べているブース、誰が購入するのか頭を悩ませるような奇妙な骨董品を所狭しと並べているブース、様々だった。
 玉石混淆というか、商品と呼べるものと、そうするには難しいものが混ざり合い、混沌とした空間になっていた。それでも売っているのはほとんどが素人だし、ふわふわと浮ついたゆるい空気感もあってなかなかよかった。
 その中にモダンな陶器を扱うショップを見つけた。そこは屋根付きの什器を使っていて、雛壇のように商品をおく棚がちゃんと作ってあった。商品の焼き物は小振りな壷やひし形のアクセサリートレイ、小皿などあって、淡い茶色で統一されたなかなか出来の良いものだった。

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