小説

『白雪姫前夜』伊藤なむあひ(『白雪姫』)

ツギクルバナー

                    1、

 その看板には『世界の真理を追求する芸術家の集い』と書いてあった。

                    2、

 話を少し前に戻そう。

 男は車を運転していた。
 街灯の少ない夜の山道を運転していると気が滅入っていくのが分かったので男は助手席に置いてある『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』に話しかけてみる事にした。
「なあ、」
 そこまで言って、男は『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』と共通の話題がない事に気が付いた。それどころか男は『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』のことを何も知らなかった。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』がどこで生まれたのかも。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』がどんな性格なのかも。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』がいままで何をしていたのかも。
『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』がどんな持ち主と過ごしてきたのかも。
 これは良くない。そう思い男はまず『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』の話を聞くことにした。
「君のことを聞かせてくれないか」
 そう言って男は黙り、そっと耳を澄ませ、『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』から話してくれるのを待った。
 しばらくのあいだ沈黙が続いたが、アスファルトが終わり砂利道になるとさっきまでのだんまりが嘘のように『小柄な小学生なら一人くらいは入りそうな大きさのトランク』は饒舌に語りだした。

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