小説

『眠り姫とオフィーリア』乃波深里(『眠れる森の美女』/『ハムレット』シェークスピア)

 極彩色の空の中を、あたしは高校の制服を着て、ひたひたと歩く。
空の中にもかかわらず、地面はあるのか。という気もしなくはないが、そこはまぁ、そういうものなのかもしれない。

 やがて、つま先にひやりとした水の感触を感じて、下を見ると、あたしはいつの間にやら素足になっていた。そして、みるみるうちに、水面はあたしの脛まで、とぷりと覆うのだ。

 ……オフィーリア。

 呟きと同時に、あたしは目を覚ます。

*****

 「それって、やばいよ。脳細胞死滅してるよ」

 同級生の多田と睡眠時間の話になった時、平日は5時間しか寝ない、というと呆れたように指摘された。
 彼は、1日8時間睡眠が自分のモットーだ、と熱弁するのだ。
 夢の話をしても、それは脳が休まっていないからだ!と。活性化してるなら、生きてんじゃん、と呟いても、「いや、死んでるね」とあっさり返される。

 死滅した脳細胞は、あんなにも美しい夢を見せるものなのだろうか。
 だとしたら、なんて美しい死骸なんだろう。

 
 放課後になると、あたしはほぼ毎日のように、美術準備室に忍び込む。そこの壁にかかる、オフィーリアの絵を見るのが、もはや日課に近しいものとなっていた。

 もちろん、それはあの有名なミレーのオフィーリアではなくて、全くの別人が描いたものだ。本物のミレーのオフィーリアの絵画に比較したら随分と小さなものではあるのだけれど。

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