小説

『眠り姫とオフィーリア』乃波深里(『眠れる森の美女』/『ハムレット』シェークスピア)

――浮橋が、王子様とか、なんかいただけないよ。

 乾いた唇で呟いた言葉は、きちんと音声となってはいなかったように思えたけれど、浮橋には届いたらしい。

「失礼な奴だな。……でも、俺は起こしてなんかねえぞ。自力で起きたじゃねえか」

 偉いな、と笑う浮橋の顔に微笑み返し、まだ鈍い痛みを残す全身を震わすと、あたしは大きく深呼吸をした。

 そうだ。あたしは、長く長く続いた眠りから、今やっと目覚めたのだ。

 「おはようさん」

 優しい声で囁く浮橋に向かって、あたしは、今精一杯出来る、満面の笑みを浮かべて見せた。

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