小説

『眠り姫とオフィーリア』乃波深里(『眠れる森の美女』/『ハムレット』シェークスピア)

 そんなんじゃないけど、と呟きながらあたしは夢の話をする。
 自分をオフィーリアに見立てているなんて、と話しながら気付いて、少しだけ赤面してしまったけれど、浮橋は馬鹿にはしなかった。

 「オフィーリアと、眠り姫は、決定的に違うよ」
 「でも、どっちのお姫様も、待ってるよ。素敵な夢を見ながら」
 「オフィーリアは、目覚めないよ」

 今日の浮橋は、少しだけいじわるだ。
 かっとなったあたしは、なんとか言い返そうと、持っていたマグカップを持つ手に力を入れる。
 じわっと広がる熱に、カップに触れた指の表面が白くなるのを見つめながら、あたしは、どうして自分がこんなに苛立ちを感じるのかわからなかった。

 「吉瀬は、どっちのお姫様になりたいの」
 「あたしは、別に!お姫様になんて」
 自分の気持ちをわかってもらえるかと思っていた人に、馬鹿にされている、と感じた失望に苛立つのだ、と気づき、あたしは浮橋の顔を真っ向から見つめた。
 すると、浮橋は、予想以上に真剣な顔をしてあたしを見ていた。

 「重要な選択だよ。吉瀬は、どっちを選びたいの」

 沈黙が痛い。遠くに聞こえる運動部のかけ声と吹奏楽部の吹く楽器の音色だけが、この場に響いていた。
 あの中に、多田も惟子もいるのだろうか。

 ――どっちも、オススメはしないけどなぁ。

 そんな、浮橋の呟きに視線をあげると、彼は、困ったような、照れたような、なんだか複雑な顔であたしを見て、微笑んでいた。

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