誰かに似ている、と最初から感じたのだけれど、どうしても誰かが思い出せない。
やわらかい輪郭、くるりくるりと巻いた髪。額はまるく、頬もまるく、くちびるが、ぷくり。とろんとした瞼まで、なにもかもやわらかなのに、瞳だけが閃光を放ち、貴石をぱちんと嵌め込んだみたいだ。
この顔には覚えがある。
視線が絡んで、どきりとする。いつのまにか目を開けていたようだ。
「目を閉じたままで。自分の呼吸を感じてください。インヘイル、エクスヘイル」
釈かの子の声が空気に溶けていく。
吸って、吐いて、吸って。目を開けていたわたしのミスも、ゆっくりと穏やかに消えていく。だんだんに心が凪いでいく。釈かの子の気配に包み込まれ、眉間がゆるみ、四肢がほどける。
「ゆっくり、目を開けてください」
瞼に涙が滲む。
白い机に置いたものが視界にぼんやりと映り、やがて輪郭をあらわしてくる。オパールとオニキスの指輪。死んだ祖母がそれは大切にしていたものだけれど、嵌めているのを見たことがない。譲られたわたしにしても、眺めて見惚れているだけ。所有しているだけで、心が華やぐような美しいもの。
「机のうえの大切なものに、心をひらいてください」
改めて指輪を見る。
形、色、艶に惚れ惚れする。祖母への思慕が浮かぶ。
「どうでしょう? 心が豊かに満たされる気持ちがしてくるでしょうか?」
釈かの子の問いに、こくり、こくりといくつもの頭が頷く。壁も天井も床も真っ白く輝くつるつるとした白い教室に、縦一列に並んだ机。おそらく五十人はいるだろう。全員が、おのおのの宝物が放つエネルギーに、一心に向き合っている。
「見ているだけで満たされる気持ちになるもの、持っていて嬉しいもの、それがあなたを縛っています」
釈かの子が歌うように話す。
「その執着を手放せば心が片付き、本当の自分に生まれ変われます」
小さくて、かわいくて、美しいものが好きなの。すみれ、貝殻、紫色のボタン、さくらんぼの種で作ったお人形、豆財布と外国のコイン、クマのぬいぐるみからとれたガラスの眼、大事な指輪。