小説

『ウェンディとネバーランド』あやもとなつか(『ハメルーンの笛吹き』『ピーターパン』)

ピーターはまた空中で一回転した。
ジョンが目を閉じて「むむむ。」と唸った。私も目を閉じて綺麗な洋服を思い浮かべる。
ポンッ
紫色の煙を出して色々な物が飛び出してきた。お菓子、洋服、ボードゲーム、トランプ、可愛いお人形などなど。
ピーターは満足げに言った。
「ここには何だってあるよ。ここは僕らだけの国さ!みんな、僕と一緒に遊ぼうよ!」

ネバーランドには何でもあった。いや、正確には何も無かったが、願えば何でも出してくれた。1日中お菓子を食べても、遊んでも、怒る大人達はいなかった。ネバーランドには夜がこなかったから、みんな好きなだけ遊んで、好きなだけお菓子を食べて、疲れたら眠った。今ではネバーランドにはお花畑も、海も、空も、山も、遊園地だってあった。ネバーランドでは空を飛ぶことも、人魚になってみたり、お姫様になることもできた。ジョンは毎日マイケルと遊びに行って、私はピーターととても仲良くなった。私はピーターにお気に入りの歌を歌ってあげたり、私とジョンが好きなおとぎ話をしてあげた。代わりにピーターは空中で回転する方法や、四つ葉のクローバーの見つけ方を教えてくれた。四つ葉のクローバーなんて、ネバーランドでは、欲しいと願えばすぐに手に入ったのだけれど。それでも私は、ピーターが大事な秘密を話すように私に教えてくれるのが可笑しくて、嬉しかった。ネバーランドでの生活は本当に楽しくて、私達は家のことも、家族のことも全く忘れていた。だけど、ある時、1人でお花畑の花を見ていてふと思った。
「帰らなきゃ。」と。
「でも、帰るってどこへ?」
「私、ここに来る前誰とどこに住んでたんだっけ?」
「ここに来る前、私の名前を呼んでくれたのは誰だったかな?」
「こんなに楽しいのに、どうして帰らなきゃいけないんだろう?」

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