小説

『柿の世界征服』相田想(『猿蟹合戦』)

ツギクルバナー

 私は生まれた瞬間に自分の特異さに気付いた。自分は他の柿の種と見てくれは同じだが、それらとは持って生まれた物が違う。それは何か。私のこの能力を用いれば世界征服が出来るのだ。具体的に云うと、私が木と成り実を生らす。その実、その実よ。その実をお前、誰か、食べる。そうしたらそれらは私の傀儡と為す。はっ。こんな楽しい事ってある?回りが自分の思い通りに動くなんて、そんな楽しい事を私は他に知らない。
 だが、悲しいかな。そんな人智を超越した私であるがいったいどういう因果か。今、道端に転がっている。もし、もしも自動車などが来て粉々になってしまったらどうしよう。と震えている。見た目では分からないだろうけど。この才能が粉と消えるのは耐えられない。誰ぞ、誰ぞ、来ないかなぁ。
 恐ろしい事を企む柿の種であった。いっそこのまま自動車が来てしまえば良かった。しかし現れたのは猿だった。
 猿は何か愉快なのか、ステップを踏んで現れた。
 「いやぁー腹が減ってどうにもならないわ。何か食べ物無いかしらん」
 そうして辺りを睥睨した猿は柿の種を見付けて近付いて行った。
 柿の種は思う。
 うわ。猿だ。え?え?こっちに寄ってくる。いったいどういうつもり?もしかして私の特異性をその鋭い洞察力により見破り、世界征服の手伝いをしようと渾身的な態度を取るつもり?それなら褒めて遣わす。けど、けど、それは私の思い違いだって事は分かる。何故ならさっき猿は腹が減った云々と言っていたから、このままでは食べられてしまう。ほおら、思った通り。私を手に通り仔細気に観察しているでしょう?ああっ誰か私を賞賛してくれないかしら。でもそんな場合では無かった。今はまずこの猿公の暴虐を止めなければ。キュートに。
 「ちょいとお猿さん」
 そんな声が聞こえて猿はびくぅっとした。この柿の種は何者かの持ち物でそれを何者かが落とした事に気付き取りに戻って来たと思ったのである。
 猿はこれを今から交番に届けに行こうとしていた所だ。と説明しようと瞬時に思い、後ろを振り向いた。しかしそこには誰もおらず、あれぇ?と思い、再び柿の種を見た。
 「私が話しているのですよ。お猿さん。この柿の種が、ね」
 ほほう。と猿は思った。柿の種は喋り出すものとは思わなかった。でも今現実に喋り掛けてくるのだから、そういうものなのだろう。知らんかった。
 猿は言った。

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