小説

『パーティ』大前粟生(『灰かぶり姫』)

ツギクルバナー

 わたしたちはおしとやかということで世に名高いけれど、今日くらいはハメを外してもいいかもしれない。今日はパーティで、パーティというよりはパーティという発音のパーティだったから、わたしたちはじきに踊り狂った。いくつもの極彩色の照明が忙しそうに会場を照らし、たばこの煙が充満したなかで、ひとり残らずお酒くさい息をだれも気にしない。
 黒を基調とした会場のなかで、だれも彼もが肩がぶつかるくらいの気軽さでキスをして、ひとつ残らず閉まったトイレの個室はなきごえをあげている。わたしたちはすぐに行動に移ろうかと思った。でも、おしとやかなわたしたちは余裕を見せなければならない。女の子たちと噂話しをしたり、ダーツやビリヤードをしたり、何回もダンスしたりしないといけない。わたしたちはあの子にものを投げるのに慣れているから、本当はダーツなんてとっても上手だけど、男の子たちのために下手なふりをしてあげないといけない。ビリヤードをするときわたしたちはちょっと申し訳なかった。デザイン性の高いドレスを着ていたから、ジーンズを履いてるときみたいにぴったりとしたお尻を見せつけてあげることができなかった。
 エレクトロニック・ダンス・ミュージックが鳴り響くなかで、壁際にインテリアみたいにコーラス部とゴスペル部とアカペラ部が並んで、競い合っている。重低音に負けじと声を張り上げている。でも彼らの声はほとんど聞こえない。アカペラ部はパントマイム部の二番煎じみたいだし、ゴスペル部はDJの風紀委員長を称えているみたいに見える。コーラス部の声だけが辛うじて聞こえる。
 給仕の人とかはいないから、飲み物は自分たちでカウンターに持っていかないといけない。でもそんなのは面倒くさくて、わたしたちはついうっかり、グラスを落としてしまう。わたしたちは破片を踏んでケガをしたりしてはいけない存在だから、話したこともない男の子が新しいお酒を持ってきてくれる。でもそれもちょっと面倒くさい。グラスの割れる音がする度に、美しい足を考える部の連中が大げさなリアクションをして、ヒステリーを起こす。はじめはちょっとそれがおもしろかったけど、すぐに飽きてしまった。わたしたちはここにあの子がここにいたらなあと思った。あの子がいたら、わたしたちはグラスを割らないで済んだ。あの子はなにもかもしてくれる。
「食べたら、働きな」なんて、わたしたちはひとこともいってないのに――いってないよね、うん。絶対にいってない。神さまに誓って絶対に、絶対にだよ――あの子は朝から晩まで家事をして、わたしたちの身の周りのことをなにからなにまでやってくれる。灰皿にだってなってくれる。一日が終わるころにはあの子はたいてい疲れ切っていて、キッチンで倒れるように眠る。あの子が寝返りを打つと、埃とフケと灰と羽がひらひらと舞って、たちまちそこはスノーボールのなかみたいになる。

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コメント
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    面白いというより恐ろしくて、目を背けたいのに読み続けてしまいました。独特の世界観と言葉の選択とリズムが蠱惑的で、いつかこういうものも書けるようになりたいと悔しくなる作品でした。(8月期優秀賞受賞者:木江恭)