ファインダーを覗き込むと、世界は青紫色で満たされた。
照りつける太陽の下、額に滲む汗を気にすることなく、一心にシャッターを切る。かしゃり、と無機質な音が辺りに響き渡った。
「そう言えば、こんな早くにばあちゃんの家にやってきたのは初めてだな」
撮った写真を確認しながら、ぽつりと草太は呟いた。
夏休みに入って、数日が経ったある日、草太は一人で祖母の家にやって来た。
何時もなら、お盆の時期に来るのが普通なのだが、今年は両親の仕事の都合により、急遽祖母に預けられることになったのである。
草太としては、別に一人で家にいてもよかった。しかし、それは両親――特に母親に反対された。
何時も人のことほったらかしにしているくせに、と不満に思ったが、子どもである彼に拒否権などあるはずもなかった。
「でもまあ、こうして紫陽花も撮れたし、結果オーライかな」
お気に入りのカメラを構えたその先――立派な門の側には、青紫に色付いた紫陽花が咲いていた。
草太が祖母の家にやって来て、最初に撮ったモノがこの紫陽花だった。今は綺麗に咲いているが、お盆に来る時は微妙に時期外れであるため、今までその綺麗な姿を写真に収めることができなかった。それが、今年は早く来たおかげで、咲き誇る紫陽花を撮ることができたのである。
予想外の収穫に、草太の心は満ち足りていた。
「何が結果オーライなんだい?」
「うわっ!」
夢中で紫陽花を撮っていると、皺くちゃ顔の妖怪――もとい、祖母が写り込んできた。突然のことに驚いて、草太は思わずシャッターを切ってしまう。
さっきまで掃除をしていたはずなのに、何時の間にこんな近くに来たのだろうか。
「ちょっと、いきなり写り込んでこないでよ!」
「別にいいじゃない。減るもんじゃないし」
「いやいや、俺の神経がすり減ったから!」
「なんだいそれ」