小説

『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)

 後輩の言う「アイツら」とは、うちの会社から借り出されたアンドロイドのことだ。政府からの要請を受け、こんな小さな会社からも五体の提供が余儀(よぎ)なくされていた。
 言うまでもなく『それらの人形が担当する予定だった仕事』まで持っていってくれるはずがなく、だからその五体分の作業が僕らに火山岩のごとく降り注いできた。それでこの散々な忙しさなのだ。
 そういう経緯があるにも関わらず、WOLFの誤報が一向に改善する気配を見せないのだから、皆が苛立つのも当たり前だろう。音頭を取っている謎のメンテナンス会社への不審が募るのも当然だった。
「はあー。もう、どこの会社が担当しているのか知りませんけど、どうせ直せないならアイツらを返してくれればいいのに……」
 後輩のこぼした愚痴に揃って皆が首肯する。僕などはいっそ、「直ちにWOLFをシステム停止し、そのまま廃棄してしまえばいいのに」とさえ思っている。そうすれば修復作業など不要となり、うちの会社の人形達も帰ってこられるのだ。
 確かに過去三年ほどを振り返ってみれば、狼によって多くの人々が天災を逃れ、命をつなぐことができている。しかし今となっては、あれが機能していないことは明らかだ。となれば、いつまでもそんなシステムを稼働させておく必要はないだろう。
 しかも全国規模で見て、かつては月に五回はあった火山岩の被害も、ここ半年は一回も発生していない。最近では狼の誤報の方が、よほど災害だった。
「いや、全くだな。どうせ直せないんなら、アイツらをこっちに返せってんだ」
「ですよね。しかも、何が悲しくてこんなものを徹夜で作らなきゃ……」
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10