小説

『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)

「……そういえばよお、次の開発の話、お前、何か聞いてるか?」
「いや、特には……それ、私も気になってたんですよ。いつもならこの時期に次の夏モデルの話も、下手したらその次の冬モデルの開発の大線表も出てますよね?」
「……まさか、もう打ち止めなんじゃねえよな、人形のプラグイン? あれだけ大量投入して狼一つ直せない出来損ないはお払い箱ってか?」
「それはないでしょう。アンドロイドはここまで世の中に普及しちゃってますからね。今さら廃棄するっていうのは、ちょっと考えにくいですよ……」
「だな。政府も人形様々だしな。何かあれば人間よりもアイツらを投入すればいいと思ってやがる。生身の人間より奴らの方が信用できるのかって話だよな? 俺らが知らないところで、いつの間にか政治の中枢も人形達に任せるようになってたりしてな?」
 それは全く笑えない冗談だ。しかしそれよりも僕は、もっと身近で起こり得そうな笑えない事態を懸念していた。それはどうやら、左右の二人も同じだったらしい。
「とにかく今後しばらくは政府のアンドロイド拡大施策は規定路線ですよ。となると次の開発の話が出ていないのは……」
「……うちが切られたってことか?」
 もしも本当に政府からの部品開発の発注を打ち切られたのだとしたら、うちの会社にとっては死活問題だ。それが事実だったなら、社員の半分のリストラなどでは済むまい。会社自体が倒れてしまう線が濃厚だ。
「まさかな、まさか……本当にうちの誰かが手がけた部品のバグで、狼が誤報を続けてたってのか? とにかく、政府から仕事を回してもらえなくなったら……相当ヤバいな」
「……後で課長に聞いてみますよ。私から、それとなく」
「ああ、頼むわ……」
 ――無職。
 

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