小説

『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)

 後輩の嘆きに再び室内の全て人間が頷く。ここまで苦辛して開発しているものが、人形のための追加プラグインであることが、僕らにとって最大の不満だった。アンドロイドに不気味の谷を渡らせるため、新たな機能を付加する。そのために徹夜をしているなんて考えたくもない。
ウゥー、ウゥーウウ。
「それにしても長えな、今日は」
「これって実は、人間に対するアンドロイドの嫌がらせなんじゃないですか?」
「わざと鳴らしてるってのか?」
 冗談めいた二人のやりとりに僕は思わず顔を顰めた。あり得ない話だけれど、一瞬それを想像してしまったのだ。言った本人らも同様だったらしく、片頬が強張っている。
 ……人形達が、人間に対して?
 システム開発会社だけあって、僕らの職場は人形で溢れていた。しかも奴らは、まだまだ拡大傾向を見せている。今はまだ人間の方が多いけれど、気づけば立場逆転、僕らの方が少数派といった状況も眼前に迫っている。そんな現状が最近、僕ら人間社員の間に奴らへの恐怖を育てていた。
 また、人形達と肩を並べて仕事をしていると、日々不満を覚えながら働いている己の方こそ異常なのではないかと錯覚させられることがある。或いはそういった微妙な感情が累積し、恐怖が増大しているのかもしれない。
 もしも不気味の谷を挟んだ岸と岸とが入れ替ってしまったなら、僕ら人間の方が不気味ということになってしまうのだろうか、と。
「……しかし、まあ、なんだ。もしも人形が何か企んだとしても無駄だな。うちの社内は別として、国内で見れば奴らのシェアなんて人口の一〇〇〇分の一以下なんだからな」
「ですね。所詮、アイツらは僕ら人間がつくったものですし」
 

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