小説

『私の頭の上の話』坂本和佳(『鼻』芥川龍之介/古典落語『頭山』)


 遅咲きの新人女性脚本家、坂本和佳(さかもとわか)はある日、鏡で自分の姿を見て仰天した。なんと自分の頭に富士山が生えていたのだ。幸い、病院でレントゲンを取ると脳や頭蓋骨にはなんら影響はなく、また富士山自体もホログラムのように透けているので普段どおり散髪もできる。健康面と日常生活に問題がないと分かり安堵する坂本だったが、その異様な姿に戸惑いを隠せない。そんな彼女の心情も知らず、街路を歩くと通りがかりのおばちゃんたちは「今日の富士山はきれいだね」と拝んでいく。


 数日後、坂本は知人の紹介で籾井(もみい)という心療内科の医者を訪ねた。

「こんにちは。籾井です」
そういって彼女の前に現れたのは50過ぎのスキンヘッド、中肉中背でどこか風変わりな印象を醸し出す紳士。その独特な雰囲気に彼女は緊張感を覚えた。
「モミー先生」
「モミーではなくもみいです。その言い方だとムーミン谷の住人になっちゃいますよ。で、ご職業は何を?」
「脚本家です」
「へえ、どんな作品を手がけてらっしゃるんですか?」
「そうですね。アニメが中心です」
「アニメ・・アニメ・・」
 籾井はそうつぶやくと嬉しそうに話し始めた。
「あ、そういえば私の学生時代のあだなはデスラーでしてね。学友に言わせると雰囲気が似てるそうで・・」
「プロレスされてたんですか?」
「え?」
「だってレスラーって?」
 籾井は表情を曇らせ言った。
「デスラーですよ。ほら宇宙戦艦ヤマトの・・久しぶりだね!!ヤマトの諸君!!」
「あ、あの穴が開いた戦艦の話ですね。見たことはないんですが、私の実家にお茶碗がありました。」
「穴の開いた船・・・お茶碗ね・・・」
 籾井は残念そうな顔をした。
 

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