「設定矛盾を引き出してキャラクターのゲシュタルト崩壊を起こそうってのかい?」
《さあ。でも、もしそうなら、あなたの書き手がそこまでだった、という証明になる》
バロットがちらとググを見やると、中立の神の目線を持つ彼は頷いた。
「許可する。それもまた闘い方のひとつだ」
ニコはそれとは分からないよう舌打ちした。
書き手がキャラクターを設定するとき、かならず「想定していない部分」がある。好きな食べ物、朝起きてなにをするか、恋人を持ったのはいつか……多くが省かれる設定問題で、設定の盛りすぎは物語の破綻を意味する。キャラクターとは立体物でありながら、シンプルで分かりやすいよう設定されている。それを覆い、複雑化するのがストーリーという幕だ。幕を抜け、その奥に潜む化石を発掘しろとバロットはニコに提案したのだ。
ニコとググの書き手は、かなり大雑把で自身も把握していない設定が多々あった。それがどこまでニコに反映されているか彼女自身も分かっていない。物語開始前のニコがどこにいたかは覚えていたが……。
だが、ニコはバロットの挑発に乗った。
「いいだろう。設定矛盾の極地まで、この物語を降りていこうじゃないか。どうせ捨てられた身だ。惜しくない」
《お前たちの言う、デジタルコンテンツにはなっていないのか?》
そうすれば生き延びられるだろうとウフコックが言うと、ニコは肩を竦めた。
「あたしたちの作者は、デジタルコンテンツが嫌いだった。いつも手書き、出版形態は紙媒体。出版社からのデジタルコンテンツ化打診もノー。海賊版も二次創作も厳しく取り締まった。だから時代に取り残された。誰も読んでくれなくなり、作者が死んだ後は書いてくれなくなった。そして処分された。劣化でね」
《………》
バロットもウフコックも沈黙で、同情を示した。可哀想にとは絶対に言わない憐憫だった。このカフェテリアで、ウフコックが化石の発掘で痛みを伴ったバロットにけっして可哀想と言わなかったように。
ニコががしゃがしゃと刀身を揺らした。
「ご親切にありがとうよ。さて、ページを移ろう。今度はどこがいい? 化石の掘り返しに最適な場所はどこだい?」
バロットが告げる。