小説

『五連闘争』三日月理音
(inspired by小説『マルドゥック・スクランブル』)

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第三部 排気 第二章 分岐 p,496
カジノでのアシュレイとの対決
「ビンゴ」
 バロットの両腕が、手袋の下で、ぞっと鳥肌を立てた。
 突然の暴露に対する、途方もない戦慄だった。


 
 攪拌されたページから、バロットとニコが命を吹き込まれた四百九十六ページに現れると、カジノで闘っていたバロットは、糸がほどけるように消えた。
「ググによってシーンが固定された。さて、ここで化石の発掘をやろうってのかい」
《そう。そして、あなたを書き換える。もうすこし素敵なものに》
 ニコは鼻で笑った。バロットは真面目な面持ちだ。
「なにに? 虚無に? ボイルドのように?」
《このシーンは極地点であり転換点でもある。私は人より多く恐怖を感じていたけれど、攻撃の恐怖はここでピークに達した》
 バロットは、ウフコックをターンさせて指先まで覆われたシックな黒いドレスに身を包んだ。もう必要ないというように、攻撃手段を放棄して、描写される椅子に腰掛けた。ニコにも手を広げてすすめる。
「ニコ……」
 気をつけろとググが緊張した。モノローグはニコとググの間では使用できない。場の設定時に、バロットとウフコックに振り分けてしまったからだ。
 手強い敵だった。今までに闘ったどの物語のキャラクターよりも、何枚も上手だった。ニコが剣の描写を解く。意を汲んだググが真っ赤なドレスを描写した。
 そのとき、ググは気づくべきだった。バロットに操作されていることに。彼らが登場した何千枚の物語のなかに、ドレスの描写など一文もなかったことに。そして、バロット自身のドレスも『マルドゥック・スクランブル』本編には描写がないことに。
 だが、ニコもググも長く闘いすぎて己と己の物語を忘れていた。
《言葉のギャンブル。ここは化石の発掘に最適なの》
 バロットが正しく笑った。己を克服した者が見せる強い笑みだった。生地にターンしたウフコックがにやりと渋い笑みをひらめかせた。
「どういうことだ?」
 ウフコックが尋ねたことを、今度はニコが尋ねる羽目になった。
《おしゃべりしましょうってこと。出身は?》
「ノースカロライナ。もっとも大気汚染の激しい三十二世紀のファンタジー世界だけど」

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