小説

『五連闘争』三日月理音
(inspired by小説『マルドゥック・スクランブル』)

「……なんだって言うんだい、こりゃあ……」
 バロットはにっこりと微笑んで、万年筆にターンしたウフコックを閃かせた。宙に文字が躍る。
《私でもあなたたちみたいに振る舞えるのかなって。試したの。たとえば他者――つまり他のキャラクターに干渉できるかなって》
 バロットは描写し続ける。手始めに彼女が物語世界で見たであろうカジノの風景を丹念に、瑞々しく描き出した。ググのように紙はない。バロットにとっては、この物語全体が描写可能な紙だった。
《この物語の端々にあなたたちが何者かというヒントは出てた。私たちのモノローグ、ページを飛ばすときの言ってくれれば、、、、、、、。そしてググという《素描者》自身によって》
 ニコは姿勢良く座らされ、ググは幕をはぎとられた。描写が書き加えられ、衣装が変わっていく。
《ググ、あなたは私たちと同じラインに立つ書き手というキャラクターなのね。だからモノローグでしか、私たちの言葉を表せなかったし、考えを読めなかった。だって、あなたは限定された書き手でしかなかったから。もし本来の書き手であるなら、私たちの内面なんてお見通しのはず。あなたは中立の《素描者》を演じるキャラクター。私たちのこの対決が物語である、、、、、ことからも分かる》
 バロットが試したのは、ググと同じ書き手の立場に立つことだった。同じ空間に《素描者》という書き手がいる。それが中立の神であるならば、神は限定された書き手、つまりキャラクターとなり得る。バロットがググを操作できたのはスナークではなく、現実をいかに受け止められるかという厳然たるキャラクター性だった。
《つまり、ググの存在自体が設定矛盾だった》
 ググは自身の内面を――彼の物語があったときに感じていた諸々を思い出そうとしたがすべて空振りに終わった。大きく目を見開いたググが相棒を見やると、ニコは顔を引きつらせ、がくりとうなだれた。呻きと怨嗟は一言も出てこなかった。ただ、黙って目をつむり、死を待った。
 二人は恨みをこぼさない。それほどまでに勝ち続けてきた矜恃と由緒ある《裁断者》と《素描者》だった。
「……負けたよ。次の《裁断者》と《素描者》は君たちだ。僕たちはこれで絶命する。もっとも、物語自体が消費されて存在しないんだから、僕らの絶命なんて意味がないけれど」
 白旗をあげたググだったが、《まだよ》とバロットが引き留めた。ウフコックで書きながら言葉を続ける。

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