シーンが固定される。
《素描者》が指先を踊らせると紙媒体の文字から信号や歩道が立体物として立ち上がり、場を創り上げた。
信号は緑のまま固まっている。歩道の白黒にのっぺりしたキャラクターが――今回の相手である少女とチョーカーに変身したネズミが足を踏み出す恰好で貼りついている。
《ルーン=バロットとウフコック=ペンティーノを
《素描者》が六十七ページから構成されるバロットとウフコックを文字で
《よし》
立体物になったバロットがパチとまばたきした。だが、顕現したバロットとウフコックはすべてを忘れているようだった。
「ねえ、ちょっとググ。これ大丈夫? ハイ、お二人さん。あたしのこと分かる?」
うつろなバロットの顔の前でサングラスをかけた女がひらひらと手を振ってみせた。ググと呼ばれた《素描者》によって、バロットたちと同じようにこの物語世界に顕現した女――ニコだった。
バロットの目に光が宿る。しかし、視線は遠く、カースタンドを向いている。
「ちょっと。まだ慣れない? ねえ、ググ。反応がないんだけど。行動の範囲を広げてあげなよ」
《とりこんだページが少なすぎたかな。少し加筆するよ》
バロットの目の前に女がいる。
背中にはみ出すほど大きな剣を吊している。
バロットは女を見つめ、自分を思い出す。ウフコックとのこれからも。
バシンと電気ショックのようにまったく突然に、バロットは自分たちのことを思い出した。パチパチと何度もまばたきする。
「
女が嫌みなほどにこやかに尋ねる。
変だった。バロットが知っている自分たちの物語と違う気がしてならない。そもそもこの女は――そうだ、この女だ。私たちの前に人はいなかったはずだ――何者だ?
バロットは目を眇め、眼前のイレギュラーに尋ねた。