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『ふるさとROCKERS』大村仁望

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 ベッチンは会うたびに髪の色が変わる。今日は毛先の方が緑で、根元はアッシュグレーだ。
「ベッチン」
「久々〜」
 ベッチンの後ろに隠れていた子供は、私と目が会うと走って駄菓子のコーナーへ行った。
「十郎丸!今日は何も買わないよ!」
「じゅーくん大きくなったね」
「でっかいのよお。幼稚園でも一番大きくて、そのくせ小心者なの。私そっくり」
 ベッチンのあだ名は旧姓、別司から来ている。高校の頃からそのあだ名で、結婚して田中になってもベッチンだ。軽音楽部でバンドを一緒にやっていた頃のベッチンは可愛かった。ベースを弾くときは真顔なのでそのギャップがまたよかった。ベースはとっくに人にあげてしまったらしいが。
 ベッチンは結婚して太った。自分でも言っているが、ふっくらした体に緑の髪色で、プロレスラーみたいだ。旦那さんはトラックの運転手で元ラグビー部。町で、この家族に喧嘩を売れる人は誰もいない。
 それぞれ買い物をして、ベッチンとはコンビニの駐車場で少し話をした。ベッチンはタバコを吸い、私はホットコーヒーを飲みながら。十郎丸は結局買ってもらったお菓子を車止めの上に座ってムシャムシャやっている。一通り近況報告をした頃、ベッチンが「そう言えばさ!」と切り出した。
「ユウナって最近何してるんだろうね」
「さあ。東京で音楽やってるんでしょ」
「茜、週刊誌読んでないの?」
「え?」
「ユウナ、音楽プロデューサーと不倫して炎上したんだよ。それでバンドメンバーみんな離れちゃって。事実上解散してるんだって」
「…」
「もったいないよねえ、そんな理由でさ。才能あるのに」
 ふと、ユウナの母親のことを思い出した。母子家庭だったユウナの、お母さんは綺麗で静かな人だった。ユウナが東京に行った後、程なくしてお母さんも見かけなくなった。うちの母が言うには「面倒見てくれる人がいたのよ」とのことだった。ユウナはたまたま「面倒見てくれる人」とうまくいかなかったのかもしれない。
「そろそろご飯作んなきゃ」と、ベッチンは十郎丸を車に乗せ駐車場を出て行った。ベッチンはたまに痣を作っていたり、歯が折れたりしている。理由を聞くと、「喧嘩だよ!」と笑う。ベッチンが言うには、やり返してるからお互い様だ、とのこと。なかなか壮絶だが、子供が怪我してないことや、家族のことを大好きだと思ってるのがわかるから、私は黙って見守っている。多少彼が太っていてお菓子ばっか食べてたとしても、黙ってる。
 私はベッチンの車を見送ると、コーヒーを飲み干して車を出した。家とは反対方向のツタヤへ。

 
 私はメディアに疎い。SNSも好きじゃない。ユウナのことも最初は気にしてブログをチェックしていたが、日々あげられる「いいね」を意識した自撮りを見るのが苦痛でやめてしまった。CDも、買わなかった。
 平日夜のツタヤはすいていた。ユウナのバンド『フレーミング』のCDはすぐ見つかった。和訳すると『炎上』か。文字どおりのバンドになってしまったと言うのは皮肉だ。レンタルと迷って、思い切って買った。デビューアルバム『fiery sunset』

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