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『ふるさとROCKERS』大村仁望

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 フレーズの切れたところで、それは口から出た。ユウナの口からも出たことはない「東京」。
ユウナは「まさか」と言うように笑った。
 彼女が工場の内定を蹴り、東京でオーデションに受かったのはそれから一年後の事だった。

 
「音楽祭なくなっちゃうの?」
 口元に手を添え、三山夫人が言う。常連客の三山夫妻は今年で五年目だ。私が高校卒業し、専門学校に通ってる時から来てくれている。三山夫人は部屋の窓から、音楽祭をいつもやっている神社の境内へ目を向ける。
「紅葉見て境内で音楽を聴いて…あれが良かったのになあ」
 旦那様はシルバーグレーがお似合いの老紳士だ。
「一昨年、大きな台風があったでしょう。まだ直ってない道があったり、この辺りが危ないって思って出てった人もいるんです。町に若い人がいないので、催し物をやろうってことにもならないんです」
 お茶を淹れながら私は答える。この辺りは山に囲まれ、天候が荒れると孤立状態になることがある。
 音楽祭も、一昨年までは多少なりともちゃんとしたものがやれていた。私の母校のブラスバンドに、隣の市から合唱同好会の人たちが来て、トリは三味線やハープなど、毎年ちょっとした演奏家さんを呼んでいた。ただ今年から中心になって動ける人がいなくなってしまったのだ。
「茜さんもドラム、やってたんでしょ。やったらいいじゃない、宴会場で」
「できたらいいですけど」
 私がまだ小さかった頃、どこかのジャズバンドが演奏した、なんて言うのは聞いたことがあるが、今やただのカラオケ会場だ。舞台もあるし、多少の大きな音なら出せるが、バンド演奏を畳に座って大人しく見るのもなんだかおかしい。
 夕食の時間を夫妻に伝え、私は部屋を出ようとした。
「いつか聴かせてよ、ドラム」
 旦那様はニコッと笑って心づけを渡してくれた。上等な和紙に包まれている。
「やりたいんでしょ?本当は」
 夫妻の部屋は、私の部屋とそう離れていない。演奏とまではいかないが、気分転換にドラムスティックでパッドやいらない箱を叩いているのが、もしかして聴こえてたのかもしれない。
「ファイト」
 小さくガッツポーズをした旦那様に「ありがとうございます」と会釈して私は部屋を後にした。
 子供の頃からずっと旅館の手伝いをし、三年前に女将になった。家も職場も付き合う人達も、みんな生まれた時から与えられ続けて来た私は、自分から何か動き出すという事をやってこなかった。自分から「やりたい」と思ったものはドラムくらい。それも今はスティックを握るくらいで、演奏までは踏み切れない。三山夫妻は、そんな私に「何かやってみてもいいんじゃない」と背を押してくれたのだ。
 でも、何かの「何」って、何だろう。
 ユウナは見つけたのだ。その「何か」を。そしてこの町を出て行った。
 その夜、久しぶりにベッチンとコンビニで会った。

 
「茜じゃん」

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