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『ふるさとROCKERS』大村仁望

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 防災無線から「夕焼け小焼け」が流れる。ブラスバンド部の練習の音、野球部員たちの声。部室の壁に貼られたポスターが夕日に赤々と染まる。この風景も、あと半年したら見ることはない。
読んでいたドラムマガジンを本棚の上に雑に置くと、私は立ち上がった。
「茜?」
 部室のドアが開き、ユウナが入って来る。背にギターを背負い、脱色に失敗した藁のような金髪を今日は三つ編みにしている。
「何、帰るの?せっかく来たのに」
「何時だと思ってんの。遅すぎ」
 私はユウナと練習をするために、終業時間の一五時半から今この十七時までずっと一人で待っていた。
「ベッチンも帰ったの?」
「バイト」
 私、ユウナ、ベッチン。私達は3ピースのガールズバンドをやっている。私はドラム、ユウナはボーカルギター、ベッチンはベース。入部したタイミングはバラバラだが全員高校三年生。練習したり、喋ったり、お菓子を食べたり、お気楽な活動をしていたが、三年生になってからそれぞれやることが増え、今は週二の活動をしている。
「ちょっとだけ合わせようよ」
 出て行こうとする私の前にユウナは立ちはだかる。私より少し背の低いユウナ。ほのかに香水の匂いがする。会ってたんだな、男と。
「だめだよ。帰って旅館手伝わないと」
 私の家は『松乃家』という温泉旅館をやっている。夕方には部屋食を出したり宴会場のセッティングをしないといけない。だがユウナは私におかまいなしでケースの中からギターを取り出し始める。
「ギターソロがさぁ、さっき急に降りてきて。ね、聞きたいでしょ」
「…私さ、ユウナに言っておきたいことがあって」
「何、進路?」
 ユウナはストラトのエレキギターをアンプに繋ぎ、白くて長い、美しい指でチューニングを始める。
「私はどうしよっかな。バカだから進学は厳しいし。ベッチンとこのお父さん工場長でしょ、うちの工場来たらいいよって言ってくれてるんだけど」
「聞いた」
「そそ。で、もう内定もらっちゃって。でもこの先何十年もこの町で同じような人たちの中で生きてくのってなんか違和感なんだよね。かと言って出てくのも怖いし」
 ユウナはブツブツ言いながらチューニングを終わらせ、降りて来たというソロのワンフレーズを弾き始める。部室に差し込む夕日はいよいよ赤くなり、ユウナの金髪と白い肌を染める。大きなライブハウスで赤い照明を浴び、汗を滲ませるユウナがふいに浮かぶ。
「ユウナ」
 ユウナはギターを掻き鳴らす。こんな華奢な体のどこにそんなエネルギーがあるのだろう。音楽とか、芸能とか、そういうものに愛される人は世の中に一握りしかいないと思う。でもユウナには、そういうものに愛される「才能」というものがあると思えてならなかった。音の一つ一つが、重い。
「東京行きなよ」

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