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『咲いた咲いた、夜空に咲いた』若松杜大

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「まぁ、ボチボチだな」
 わざとらしい方言には付き合わず、いつもの調子で中年男は答えた。
「そっちは?」
「こっちもボチボチ。流行りものでも扱ってりゃ、浮きもするケドよ。そんなことすりゃ沈みも早いし、まぁ、お互いボチボチでいいじゃねぇか」
 そりゃそうだ。そう思って彼も露店の定番中の定番である焼きそばを扱っているのだから。
「そういやさ、墓参り、行ったか?」
 ふと、いま思い出したかのように、言う男。確かに、盆は墓参りくらいする時季である。けれども、実家なんてここ数年は帰らなかった。そもそも、父親が病んでその世話を、実家を継いだ長男に押し付けるように任せてから、さらに実家が遠のいた。
「いや、おめぇもそうだろうけどよ、盆なんて稼ぎ時に休んでなんかいらんねーじゃねぇか」
「はははっ、ちげぇねぇな」
 なぜ唐突に気が付いたようにそんなことを聞くのだろうか。
「どうしてそんなことを聞くんだ」
「実家、大事にしてなさそーだなって、思ったからよ。まぁ、そろそろご先祖様を大事にしてもいいトシじゃねぇのかな、と思ってさ」
「ちげぇねぇな」
 そうか、と男は花火を観ながら思い出す。ちょっとくらい時間が空いたら墓参りにでも行こうか。そして、父親の見舞いもついでに行くか。
「花火観て、ホームシックなんて、中年のおっさんが陥るこっちゃねぇけどさ、まぁそうだったら日本はちぃっとは平和だってことかもな」
 思いのほか、イイ奴なのかもな、と、ちょくちょく見かける男のことを、少しだけ、解って来たような気がした。
「ま、お互い倒れない程度に頑張ろうな」
 そう言って、咥えタバコで男は露店から去って行った。おい、焼きそばに灰を落とすなよ、とか思いながら、見送る。

4

 これが、人生で観る最後の花火かも知れない。
 病室の窓から、瞬くように光る花火を眺めながら、老人は思った。
「あら、花火が・・・・・・」
 ベッド脇に置かれたパイプ椅子に座った老人の妻が呟いた。さっきまで、こくりこくりと舟を漕いでいたのに、いつの間に起きたのだろう、2人、同じ窓の向こうを眺めている。
 思えば、悪くない人生だった。自分は、働くということ以外になにもしてこなかったような気がする。と、老人は自分の人生を振り返った。そんな中で、3人の息子を立派に成人まで育て上げたのは、自分の中で大きな誇りだと思う。けれども、2年ほど前に大腸癌を患って以来、入退院を繰り返してきた。現代では癌は治る病気とは言われているが、それでも日本人の死因第一位に君臨する病に、どうしても抗えないことが解って来た。

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