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『咲いた咲いた、夜空に咲いた』若松杜大

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 彼女は花火を観ながら考える。
 隣の彼のこと、好きか嫌いかと問われれば、好きだと答えるだろう。そもそも、嫌いだったら付き合ってもいないし、この20代という輝かしい年代を嫌いな人と付き合うほど、勿体ない過ごし方はないと思っている。大学時代や、会社の後輩には“寂しいから”とか“お金を持っているから”とかそんな理由で好きでもない男と付き合っていて、別れてから「やっぱり寂しいの」なんて相談というか、愚痴めいたことを聞かされたこともあったけれども、自分はそんなことしたくないし、できない。じゃあ、彼のことは今までで一番好きか、と問われたら答えはノーだ。彼のことを想うと食事も喉を通らないほどなのか、と問われたら全力で、ノーだ。昨日体重を測ったら、1kg太ってたし。じゃあ、嫌いか、と問われたらそれも答えはノーだ。手も繋ぎたくないほど嫌いか、と問われたら全力で、ノーだ。ここに来るときだって、お互いに汗ばんだ手を握って来たんですもの。相反する「ノー」が自分の中で存在する。初恋のときは、相手のことを想うと夜も眠れなかった。もう10年も前のことになるけれども、それは自分に酔っていただけのことだったのだろうと、いまになって思える。恋に恋する青春時代ってやつか。
 彼女は思わず苦笑する。その表情を、彼に見られたかと思うと、急に隣に寝転んでいる男が嫌いになってしまいそうだ。その感情を、ひゅるひゅると空に向かう花火に見つけられてしまい、ドーンと夜空にばら撒かれたようで、さらに彼のことが嫌いになってしまう、彼女。
「あのさ、コトミ・・・・・・」
彼が、彼女の首元に息を吐きながら呟いている。
「うん、なに」
「俺さ、俺たちさ・・・・・・」
 言葉尻は花火の音にかき消されて聞き取れなかった。彼女は返事代わりに、曖昧に喉を鳴らしておいて、ひょっとして、彼はいま、わたしにプロポーズをしたのではないか、と思った。でも、まさか。彼とこのまま2年くらい付き合って、結婚して、子供を二人くらい産んで、このままヤマもタニもない人生を過ごしておばあちゃんになって・・・、などと瞬間的に想像をしてみた。いやいや子どもを産むということは女性にとっては充分ヤマではないか。そんなことを、相変わらず空を見上げながら、彼女は思う。
 いつの間にか、二人の間には沈黙が居座った。実際の距離は数センチしかないのに、心の距離は遠ざかっていくばかり。近くて遠い夏の空。しばらくそのまま何かを待つでもなく二人。その間、花火が5発、6発・・・。不意に、耐えかねたのか彼は
「トイレ、行ってくるわ」と呟いて立ち上がった。
「あ、うん」
 彼女は既に立ち上がった彼の背中を見送る。嫌いになっちゃった恋人に早くもフラれたような気分だ。そして、彼女はさっき思い出した初恋のことに想いを巡らす。
 確か、私は初恋の人と、この花火を観に来た。あれは確か中学校のとき。当時仲の良かった男女6人でワイワイキャッキャッとしながら観ていた。青かった、そんな春も悪くない。そういえば、ダイキくん、わたしの初恋のダイキくん、いま、なにしてるんだろう。自動車部品の工場で働いているって、1年前の同窓会で同級生伝いに聞いたっきり。もう一度、会いたいような、会いたくないような。この、同じ花火を観ているのだろうか。どこか遠くに行って観ていないよな。その間も花火は断続的に上がり続ける。

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