あちらもこちらも屋台とはまるで違うという、未体験のものばかり登場するものだから、おばあちゃんはすっかり感動していた。
席に座るや否や、立派なメニュー表が丁寧に置かれた。こんなカラフルで大きなメニュー表を見るのも初めてだ。そこに載っている見たこともない料理たち。グラタン?ハンバーグ?海老フライ?カルボナーラ?パフェ?洋風なカタカナメニューがずらりと並び、目が回りそうだ。さぞかしお高いのだろうと思ったが、料理たちの写真の横にちょこんと添えられた金額に目をやると意外なことに思ったほどではなかった。と言っても相場もわからないのだが……。
おじいちゃんは『ハンバーグ&海老フライ』を、おばあちゃんは『チキングラタン』を選んだ。それをうっかりほっぺを落としてしまわないように気をつけながら二人はナイフとフォークを使って丁寧に口に運んだ。慣れない作業にぎこちなさが際立つ。
一方、ぎこちない二人の関係の方はというと、食事が進むにつれ会話も弾みスルスルと紐解かれていた。そして食後に、これまたカタカナの何やらおしゃれそうな飲み物を二人揃って追加注文する頃には、ぎゅんぎゅんと打ち解け合ってぎこちなさは消え去っていた。
「何て幸せな時間なんだろう」
この特別な時間の余韻に浸りながらいただく食後の甘い一杯。今日を締め括るこの味をきっと一生忘れないだろうと二人は思った。
おいしい料理と豪華で素敵なお店、そしてダンディを身にまとった風に見えるおじいちゃんによっておばあちゃんはすっかり満たされ、心がじゅわぁっと温かくなっていた。
麦ちゃんはおばあちゃんの話を夢中になって聞いていたが、一区切りついたところで我に返った。
「そこでおばあちゃんの胸の奥のスイッチが押されて心がドキドキ動いたんだね!」
とまた背伸びをして言い、にやりと笑った。
「そうね。すっかりドキドキしてしまっていたよ。その後にね、食事が済んだところで、おじいちゃんが一人で席を離れて行ったのよ。どこに行くのかしらと思ったら、私に気を遣わせまいとお会計に一人で行ってくれたようなのよ。けれどそれがなかなか戻ってこないの。だからこっそり様子を覗いてみたら、何やら店員さんに質問をしているようでね。何か問題でもあったのかなと思って、戻ってきた後に『何を話していたの?』と聞いたら『秘密の話だよ。ちょっと聞きたいことがあってね』だって。けれどその時のおじいちゃんの顔を見たら、いつも以上ににこやかで満足気だったの。だから、おじいちゃんも満たされた時間を過ごせたんだってことはしっかり伝わってきてね。私と同じ思いでいてくれてる気がして嬉しかったよ」
「えー?おじいちゃん、店員さんに何を聞いていたのかなぁ?」
麦ちゃんは、ちょっと考えてみたけれど検討がつかないのでまたすぐおばあちゃんの話を聞く姿勢に戻った。
「そうねぇ、何だったんだろうねぇ。帰り際、ウエイターさんがドアのところでまた丁寧なお辞儀をしてくれてね、お見送りされながら二人でお店を出たの。そしてドアベルのカランカランという『また来てくださいね』の声を耳にしながら、二人で歩き出したの。外はやっぱりひゅうひゅうと寒かったけれど、その時おじいちゃんが勇気を出して手をつないでくれてね。ドキドキしつつも心は温かくなったよ」