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『カフェモカの思い出』なかつむぐ

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 こぽこぽこぽこぽ……
 この音が大好きだ。
 牛乳を小鍋に注いで火にかける。グラグラし始めるちょっと前のクラクラあたりでココアの粉とインスタントコーヒーの粉をはらはらはらと散らす。
 真っ白だった牛乳がチョコ色にもったりと染まっていく……。私の手によってこの真っ白さが奪われていくのだと思うと何だかセンチメンタルな気持ちになる。心は感傷に浸るつもりのようだが、鼻孔の方はそんな繊細さは持ち合わせていない。とろけだす甘いチョコ色の香りを反射的にキャッチし、この香りを取りこぼさないように最大限取り込むのに大忙しだ。
 仕上げにスプーンでくるくるくると三掻き。これで出来上がり?いや、まだ。大切なのは次。そのまま火にかけ、ちょっぴり煮立たせるのがおいしくなる秘訣。ぷくぷくぷくと気泡がでてくる。たくさんの気泡が仲良く並んできた頃合いで火を止める。すると余計な水分が飛んでいき、とてもミルキィになるのだ。さぁてこれで〝カフェモカ〟の出来上がりだ。
 しかし、ここだけの話、これは正式にはカフェモカとは呼べないらしい。〝カフェ〟だの〝モカ〟だのが一体何なのかよく理解してはいないけれど、〝カフェモカ〟と堂々と名乗るには、エスプレッソコーヒー、チョコレートシロップ、スキムミルク、以上三名の出演協力を仰ぐ必要があるという。何ということだ、その誰も協力いただけていないという事実。これではただの〝カフェイクモカ〟ではないか。
 だけれど、そんなことは気にしない。誰に何と言われてもこれが私たちの〝カフェモカ〟だ。
 そんなことを考えながら、二つのマグカップに出来たてホカホカのカフェモカを注ぐ。
 こぽこぽこぽこぽ……
 温かい飲み物をカップに注ぐときに聞こえるこの音、何て心地いいのだろう。音に追いつきたいのか、慌てて湯気がもわもわと立ち上がる。湯気たちは自由気ままな性格をしているから、このいい香りを自由にどこまでも運んで幸せな気持ちをみんなに届けてくれる。ありがたいことだ。

 注ぎ終わると、横から手がぴょいっと伸びてきてマグカップを大切そうに包んだ。
「こぼさないようにそぅっと、そぅっと……」
 何やら自分に言い聞かせながら、その小さな手で順番に二つのマグカップを慎重にお盆に乗せている。マグカップを乗せる任務を無事に遂行したらすっかり安心したのか、今度は急かすように言った。
「おばあちゃん!お話の続き!続き!」
 孫に〝おばあちゃん〟なんて呼ばれる度にいつもちょっぴり驚いてしまう。いつの間に世間で言うところの〝おばあちゃん〟というカテゴリーに仲間入りしたのだろうか?考えてみると、孫も今や小学四年生の十歳。となると、私もおばあちゃん歴は十年目ということになる。これでは新人おばあちゃんどころか、もはや立派なベテランおばあちゃんというところだ。おばあちゃんと呼ばれることに驚いている方がむしろ驚きなくらいの熟練レベルじゃないか。

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