びしょ濡れの由美に、お風呂に入ることを促し、その間に、蒼太を寝かしつけた。外はさらに騒がしくなり、同時に自分の心もどんどん騒がしくなっていった。そんな智子と裏腹に、蒼太はすぐに寝息を立て始めた。
お風呂から上がった由美とダイニングテーブルでぼんやりと時を過ごす。いつもなら、あれこれ会話が途切れることのない姉妹なのに、どちらも全く話さなかった。心の中は、真一と雅樹がいまどうなっているのかという心配で満たされていて、ほかに考える隙間がなかった。気持ちを落ち着けようと、智子が入れた紅茶をお互いたまに啜っては、一睡も出来ないまま夜を過ごした。
日の出と共に、嵐が去って行った。だが、真一と雅樹はまだ帰って来ていなかった。
きっと、どこかで嵐をしのいでいる――。
2人してそう信じた。
街はまだ目覚めていなかったが、智子と由美は居ても立っても居られず、2人で真一と雅樹を探しに出かけた。蒼太はまだ夢の中だったが、起きるまでにはまだ2時間ほどある。
街に出ると、そこら中に木の葉が散らばっていて、木が倒れていたりした。想像以上に大きな嵐だったことを、2人は再認識した。
「しんいちさーん、まさきー」
2人して早朝の街で声を上げる。朝から申し訳ない気もしたが、声を上げないと、心が押しつぶされそうだった。
多くの住民が眠れぬ夜を過ごしたのか、2人の声に気づいた街の人たちが、ワラワラと出て来た。どうしたの? 何があったの? と聞く顔見知りの近所の人たちに、手短に事情を話す。彼らは、そりゃ大変だ、とか、真ちゃんなら絶対大丈夫だ、とか、2人を安心させつつ、直ぐに捜索を手伝い始めた。
1時間もすると、雅樹が見つかった。
海辺の倉庫で眠っていたとのことだった。
近所の佐藤さんに連れられて、由美と智子の前に連れられてきた雅樹は、安心したのか、「おかあさーん」と、由美に抱きつき泣き始めた。
「どこに行ってたの!?」
厳しい顔で雅樹を叱るつもりの由美も、雅樹をきつく抱きしめ、「もう、心配したんだよ」と泣き始めた。雅樹が帰ってきて良かったと思いつつも、真一が雅樹と一緒でないことに智子の心は晴れなかった。
由美もそう思ったのか、抱きしめていた雅樹を一旦離すと、「伯父ちゃん、来なかった?」と聞いた。雅樹は口をへの字に曲げたまま、首を振った。
嫌な予感がした。
真一を探す中で見た海が今まで感じたことのないほど冷たい青に見えた。ボニンブルー。無人を意味するボニンを冠する、汚れない無人の青じゃない。この青は人を飲み込み無人にする青だ……。