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『ボニンブルーの海で』十六夜博士

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 あの日、この島を横切る台風をやり過ごすために、漁船を固定する準備を終えた真一と、台風情報を見ながら、何事もなければ良いと願っていた。台風が来ることは多かったが、とりわけ大きな台風で、真一の相棒である漁船が気になっていた。漁師にとって、漁船はただの船ではない。機嫌を損ねると一転して牙を剥く海で、命を共にするバディーなのだ。例に漏れず、漁師の真一は漁船を大切にしていた。そこには、生業を成立させるための道具と人間の関係というより、先の見えない大海を渡り歩く、盲導犬と主人のような親密な関係を、智子は感じていた。
 徐々に騒がしくなる外界に不安は膨らんでいったが、騒音に驚くこともなく楽しそうに遊んでいる蒼太を見ていると、智子も真一も緊張が少し和らいだ。蒼太は、3歳になったばかりだった。
『子供は3歳までに全ての親孝行をする』
 そんな話を聞いたことがある。3歳までの子供の可愛いさは、一生分の親孝行に相当するという意味らしいが、智子はその通りかもしれないと思っていた。嵐に怯えるこんな日だって、真一と蒼太がいれば、乗り越えていける。そんなことを思った。
「こんばんは」
 玄関から由美の声がした。いつものような、おっとりした声ではない。歩いて1分もしない近所に住んでいるとはいえ、なんでこんな嵐の日に? とちょっと嫌な予感がした。
「どうかしたの?」
 玄関に佇む由美は、ずぶ濡れだった。そして、今にも泣きそうな顔をしている。
「雅樹、来てない?」
「えっ、来てないよ……」
「どこ行っちゃたんだろう……」
 由美は頭を抱え、うずくまった。由美の一人息子、雅樹はまだ小学一年生になったばかりだ。真一がバスタオルを持って来てくれたので、智子は由美の身体を拭きながら事情を聞いた。学校から帰って来た後、部屋にいたはずの雅樹がいなくなっていて、全く心当たりがないという。もしかして、可愛がっている従兄弟の蒼太に会いに行ったのではと思い、嵐の中、来たとのことだった。よっぽど動転したんだろう。電話をかければ済むのに、嵐の中をここまで来るなんて――。由美の焦りと不安がわかる。
「どこかに出かけて、帰れなくなっているんじゃ……」
 由美は泣き始めた。
「俺に心当たりがある」
 真一は突如そう言うと、玄関に掛けてあった雨具を羽織った。
「えっ」と驚く2人を残し、真一は瞬く間に嵐の中に出て行った。

 あの日の夜ほど長い夜を智子は知らない。
 家に戻るのも危ないし、バラバラに真一と雅樹の帰りを待つのも心細いということで、由美は智子の家に泊まることになった。由美はその時もうシングルマザーだった。

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