たまたま、ほぼ同時に岸に上がってきた私たちは、その場で軽い雑談をした。学生ですか? いえ、仕事前に寄っているんです。私もそうです。本当ですか、すごいですね。いえいえ、あなた方こそお若いのに、大したものです。
「ねえ、ずっと立ち話をしているのも失礼よ」と言ってきたのは、にこやかに微笑する女のほうだった。「せっかく話をするんなら、ちゃんと時間をとって、きちんとしたところでした方がいいんじゃない?」
「そうです。せっかく同じ海で波に乗っているんです」と、男は若い純粋な笑顔を輝かせて言った。「もしよければいつか、いえ、今からでも、一緒に昼食などいかがでしょうか? 僕たちの家が近いので、できることなら招待させていただきたいのですが」
突然の誘いだったが、私としては彼らにずっと好感と好奇心を抱いていたため、断る理由はなかった。急ぎの仕事もなかったため、私たちはいつもより早めに海を離れ、それぞれ準備をしてから再度合流することになった。
まだ新車のにおいの残る車の中で、私たちは今更ながら自己紹介をしあった。二人は二年前に結婚をしていて、両者とも二十七歳だった。池澤という名字で、男は浩貞といい、女は沙弥といった。
「この人、ずっとあなたに興味津々だったんですよ」と助手席に座る沙弥さんは言った。「なのにずうっと他人行儀にしてるから、なんだかおかしくって。はやく食事にでも誘えばって言ってたんですけど、いつまでもうじうじしてまして」
バカ、やめろと言っている浩貞くんのようすを見ながら、まるで新婚のようだな、と私は思っていた。結婚して二年目、私は妻とどのような態度で接することができていただろうか。妻は、どうだっただろうか……。
彼らの家は小高い丘の上にある、下から見るとやけに目立つ真っ白で角ばった建物だった。ポーチには木製の段差と囲いがあり、庭の天然芝は短く刈り込まれており、隣家との境には高い整った木々が植えられている。内装もシンプルなものだったが、整っているというより、新築の状態を保ったままあまり使われていない空間のようにも見えた。
私がリビングできょろきょろしていると、浩貞くんが笑いながら、「なにもないでしょう」と言ってきた。
「ああ、いえ、失礼しました」と言って、私は自分の無遠慮さを恥じた。
「家を買ったはいいんですけど、なかなかレイアウトを気にしている暇もないんです。仕事が忙しいのもあるんですが……」
「二人とも、暇さえあれば海、ですから」と、沙弥さんが夫の言葉を拾って言った。「いつでもサーフィンをしたいから、ここに越してきたようなものですし」
「ああ、わかります」と、私はにこやかに同意した。
沙弥さんが料理の仕上げをするあいだ、私と浩貞くんは二階のバルコニーで過ごすことになった。そこにはガラステーブルと二つの椅子があり、下に広がる住宅街から海までを見渡すことができた。
「とても良いところにお住まいですね」と、私は素直な感想を口にした。
「そう言われると、ちょっと照れますね」と浩貞くんは言った。「実は、この家に客人を招くのは、あなたが初めてなんです。家族には早々に見せたんですが、戸建てに引っ越したことさえ言っていない友人もいます」
私は驚いて、「なぜ?」と勢い込んで尋ねた。
「ああ、いえ、失礼しました。しかし、こんな良い家に住んでいるのに、友人にさえ言わないというのは、ちょっと信じられませんよ」