「じゃあ、俺たちこれでおワリィ?」
「大丈夫だ。お前たちは見学扱いだから」
話す間もおじいちゃんはスクリーンを見つめ続け、微笑んだり目を細めたり、さらにわたしが見たことがないような表情を浮かべることもあった。
「ここでは人生を見ることができるんだ」
「「人生?」」
わたしとサトシの大きな声が草原に響き、何人か他のお客さんがふりむいた。わたしたちの姿に気づくとみんな優しく目を細めて少しだけ声をかけたそうな素振りを見せるけどすぐにスクリーンに向き直る。
「そう。走馬灯というものに近いのかな」
「そーまとう?」
サトシはさらに首をひねる。だけどわたしはじっとおじいちゃんを見つめ返した。
走馬灯。
その言葉は知っている。
おじいちゃんの部屋で読みあさった本の中にそんな話が載っていた。映画のように人生を見れるって書いてあった。でも、それは……、
「おじいちゃん、」
何を聞けばいいのか、ううん、聞きたいことを口に出すのがなんだか怖くて口ごもったわたしを見ておじいちゃんはふんわりと微笑んだ。そして、わたしには何も見えないスクリーンを指差して、本当に嬉しそうな声で甘くささやいた。
「ほら、おばあちゃんだぞ。まだ若いなぁ」
おばあちゃんはわたしが生まれてすぐになくなってしまった。だから写真で顔は知っているけれど、声も暖かさもわたしにはわからない。おばあちゃんには悪いけど、わたしのそばにいてくれたのはおじいちゃんだ。思いっきり手を伸ばしておじちゃんの手を握る。その手の暖かさにほっとしたのにそれだけじゃ満足できなくてもっと強くその手を握る。
胸がドキドキした。
はらはらと揺らめくように輝く月の光がとても冷たく感じた。
そして。
リーン。
どこからかとても透明な鈴の音がした。涼やかで聞いたことのない音色。こんな綺麗な音を聞いていちゃいけないんじゃないかと思ってさらにドキドキが早くなる。
リーン。
音は徐々に広がって草原いっぱいに鳴り響く。ちっともうるさくないのにすっと身体の中に染み込んでくる。一体どこからなっているんだろうと不思議に思って振り向くと、月の光が凝縮したような真っ白な道がぼんやりと草原の中に浮かび上がり、夜のその先まで続いていた。音はその向こうから響いていた。
先ほどチケット売り場にいた男の人が草原の向こうを指してみんなを誘導し始める。周囲の人たちが微笑み合いゆっくりと歩き出す。
「なんだよ、あっちになんかあるのかな?」