「大丈夫ですよー。1名様100円で入れます」
「……えっと、無料じゃないのかい?」
「……これでも破格の値段ですよ。水曜日だって100円じゃ映画見れません」
確かに普段の映画と比べたらとってもリーズナブル。なのにおじいちゃんはありとあらゆるポケットをゴソゴソと探ってからうなだれた。
「しまった……財布は持ってきてないんだよ」
つまり。映画は……、
「すみません……、チケット買ってもらわないことには……」
男の人がすまなそうにつぶやき、おじいちゃんが「あちゃー」と頭を抱えたとき、「俺のお小遣い貸してあげるよ!」とよく知ってる声が割り込んできた。
「サトシ!?」
「何してんるんだこんなところで!?」
驚くわたしとおじいちゃんに向かって勝ち誇った笑顔が振り向いた。サトシはわたしの幼馴染で隣に住んでいる。
「じいちゃんとナツが出てくんのがたまたま見えてあとついてきた。途中でアイス買おうと思って、ほら、お財布持ってきたんだ」
「夜中に何やってるんだ。子供は寝る時間だ」
渋い顔をしてみせるおじいちゃんに、サトシがすましてみせる。。
「じゃあ、いらないの? 100円」
サトシのおかげで無事に月光映画館に入場できた。そこは今まで見たことのない映画館だった。どこまでも広がる草原の中に、たくさんの真っ白なスクリーンが透き通った月の光を浴びて輝いている。草原に腰掛けて各々スクリーンを見つめる人たちの顔にはいろんな表情が浮かんでいる。笑顔。泣き笑い。まだわたしが知らない顔もある。息を止めるように苦しげなのに目は奥から輝いている。いつかわたしもあんな表情を浮かべることがあるのだろうか。
「なぁ、映画いつ始まるの?」
サトシがキョロキョロと周囲を見渡す。確かに。たくさんのスクリーンが煌めいているのに、まだ映画はやっていない。でも、不思議なことにみんなスクリーンを見上げている。バラバラの表情のままだけど、みんな真っ白なスクリーンを見つめ、人によっては映画に合わせるように歌を口ずさんでいた。
草原の少し高台になっているところに腰を下ろし、他の大人たちと同じようにスクリーンを見上げていたおじいちゃんがわたしたちに向かってやさしく微笑んだ。
「お前たちにはまだちょっと早かったなぁ」
「どういうこと?」
首をかしげるわたしたちにおじいちゃんは静かに教えてくれた。
「この月光映画館は人生で1回しか入れないんだ」
「1回だけ??」