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『5年目のコインシデンス』谷田円

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程なくぶどう畑は緑の葉の美しい季節になり、ワイナリーは見学者を受け入れる忙しい時期になってきた。簡単な食事が取れるカフェも併設されているので、予約が多い日にはホールスタッフとして接客をすることもある。ワイン作りに興味を持っているゲストたちとの会話は、いい息抜きにもなった。

そして夏が到来しぶどうの実も成長を始め、良い実を作るための摘芯・除葉・摘房などといった作業に追われ、毎日が過ぎていく。初めてづくしで戸惑いながらも、風通しや陽あたりを良くするための剪定のコツなどを、新しい知識を得るのが嬉しくて仕方がなかった。10月上旬からワイナリーの基準に沿った糖度・酸度をクリアした房の収穫を行い、いよいよワインの醸造が始まる。

農園の忙しい日々に追われながらも、充実した日々を送っていた10月のある日。郵便受けから封筒の束を引き抜いた時だ。キラッと光る細長いものが落ちた。拾い上げてみると、それは小さなビーズで作られたぶどうの実がついた、金色のヘアピンだった。ちょうど収穫も終わりのタイミングだったので、何だか誰かが「お疲れさん」と言って労ってくれているような気がした。

家の中に持ち帰り、キッチンにあったボタンの入ったジャムの瓶の中にそのヘアピンも入れる。チリンと音がした。それまでボタン一つだけが透明な空間にポツンとあったのが、ヘアピンを入れてみると急に賑やかになって、それぞれの色がより濃くなったように見えた。よし、これから鳥が何かを持ってきた時は、この瓶の中に入れていこう。それから半年に一度、ほぼ決まった時期に一つずつ増えていく小さなご褒美は、確実に成長している自分への通信簿のように思えた。冷蔵庫にもたれかかって瓶を横目で見ながら、自分のワインを作れる日が近いうちに来るのでは、と思い始める。完成したら、代々木のオーナーと銀座のマネージャーに送ろう。ありがとうの代わりに。

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この町に通い始めるようになって、もう何年経っただろう。4年半、いや5年だ。誰とも会話せず、疲れた心と体を癒すためひっそりと滞在していた最初の年と違い、いつしかホテルの従業員やビストロのオーナー夫婦とも気さくに話をするような仲になっていた。ここへの旅が現実逃避の手段ではなく、自然、ワイン、料理、そしてそこで毎回変わらず温かく迎えてくれる人たちに会いにくることを目的としたものにいつの間にか変わっていて、自分自身でも驚いていた。

「おかえりなさい、さっちゃん。今日はサイクリング?」
ホテルの受付の初老の男性、榎木さんが声をかけてきた。
「はい。結構走ったんで足がもうパンパン。」
「はは、じゃあお腹も空いたでしょう。 Le Lienのご主人が、10月半ばにさっちゃんまだ来ないのかな?なんて話していましたよ。」
「そっか、今回は仕事の関係で11月になっちゃったから。」
「あそこ、紹介して良かったなと思いますよ。だって毎回行ってくれてるでしょう?」
「こちらこそ、始めに紹介してもらってほんと良かったです。ここにくる理由の一つになってるし。」
「7時に予約入れてますよ。」

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