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『5年目のコインシデンス』谷田円

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それまで本など教科書以外読んだこともなかったが、書店に足を運びワインに関する本を買い、読み漁るようになった。もともと空っぽの頭だったから、カラカラに乾いたスポンジが水を吸うように、面白いほど情報が入ってくる。店では3年ほど働いたが、もっと多くのワインに触れたいと思うようになり、オーナーにそう伝えた。「お前はもっといろんなところで経験積んだ方がいいよ。」と言ったオーナーの、目尻の優しいシワが今でもはっきりと思い出せる。

それ以来大きな企業が母体の大型レストランを中心に、いくつかの店で働いた。20代半ばを越した頃にはソムリエの資格も取り、世界的にもナチュール・ワインが流行になってきていた背景も手伝って、その分野の知識が豊富であることは重宝された。250席を超えるような銀座の大型店舗で働いていた時は、毎日が忙しく緊張感に包まれていてやりがいも感じていた。

ワインの取り扱い本数も多く、国内外のたくさんのゲストが集まるその店で働いていた29歳の頃だ。何かが変わってきたと気づいたのは。飲食業界に飛び込んで以来、ワインをもっと知りたいという気持ちで続けていた仕事だったが、ここ数年は、自分はなんだか本質からずれたところで奔走している気がする。

流行りに乗ってナチュール・ワインを注文する客はたくさんいたが、ノンフィルターのためワイン内に残ったオリを見てクレームすることも多かった。その度にワインの製法上オリが残ることや、味や品質に影響があるものではないことを説明したが、粗悪品だと言って引かない客も少なくない。普段飲んでいるワインとの味の違いを受け入れられずに、劣化してると言い張って聞かない客もいた。

経験と知識もある程度あり、自信も出てきていたのだろう。店の方針通り黙って別のワインを開け直せばよかったのだが、引き下がることができない時もあった。作り手が丹精込めて作ったワインへのリスペクトもないゲストのために、不良品でもないボトルを丸々1本無駄にするのが癪に触ったのだ。ついつい乱暴な口調で反論をしてしまい、マネージャーがテーブルまで謝罪に行かなければならないことも多々あった。

上司や同僚が、自分のことを持て余している雰囲気は感じていた。しかしワインの知識に関して自分の右に出る者はなく、情熱は誰よりも持っていることは自負していた。もっとうまく立ち回れよ、という同期の意見を聞こえないふりをして、自分は正義だと思い込んでいた。そして同僚たちのことを、プライドのない奴らだと軽蔑していた。

そんな日々が1年以上続いたある日、とうとうマネージャーと真っ向からやり合ってしまった。いい加減彼も、自分の尻拭いで頭を下げにテーブルを回ったり、自分のせいでギクシャクしてしまった空気をどうにかするためフォローすることに疲れ果てたのだ。今考えれば当たり前だと思う。短気な自分であればとっくの昔に爆発していたと思うので、マネージャーは本当に温厚で我慢強い人だったのだろう。

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